アート・アーカイブ探求

菱川師宣《見返り美人図》江戸美人の存在感と生命感──「田沢裕賀」

影山幸一

2014年01月15日号


菱川師宣《見返り美人図》江戸時代・元禄年間(1688〜1704)前期, 絹本着色, 掛幅,縦63.0x横31.2cm,
東京国立博物館蔵, Image:TNM Image Archives 無許可転載・転用を禁止

桜と菊の美人

 一人立ち美人図として日本で最も有名な絵。菱川師宣の《見返り美人図》(東京国立博物館蔵)である。この「見返り美人」というタイトルが日本人のイマジネーションを増幅させるのか、絵に人を引き込んでいく。既視感を感じる絵だ。現代の目で見れば、美人かどうか、着物を着た胴長短足の後ろ姿の女性で顔は半分しか見えない。美人の判断も五分五分である。振り返っている女性の顔が見えそうで見えないこの曖昧さが日本的なのか、着物の模様は日本を象徴する春の桜と秋の菊が描かれ華美である。この国宝でも重要文化財でもない美人図が、なぜ人気があるのだろう。色彩は鮮やかできれいだが絵画作品としては淡泊であり、何か物足りなさを感じる。着物や余白に何か意味があるのだろうか。
 《見返り美人図》を所蔵する東京国立博物館の学芸員で絵画・彫刻室長の田沢裕賀氏(以下、田沢氏)にこの作品の見方を伺いたいと思った。田沢氏は『[カラー版]浮世絵の歴史』や「近世・近代風俗画における服飾表現に関する分野横断的研究──小袖及び着物の編年的研究への絵画研究の活用」(共に共著)に論文を寄せるなど、浮世絵にも詳しい。何より作品を所蔵する美術博物館として《見返り美人図》をどう見るのかずっと伺ってみたかったのだ。新年早々、東京・上野の“トーハク”へ初詣でとなった。


田沢裕賀氏

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