デジタルアーカイブスタディ
日本美術の担い手たちの声を残すデジタルアーカイヴ──日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴの試み
加治屋健司
2011年02月01日号
日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴは、日本の美術関係者に聞き取り調査を行ない、それをオーラル・ヒストリーとして収集・公開・保存する団体である。本稿では、日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴの活動を、設立経緯や運営方法も含めて紹介したいと思う。オーラル・ヒストリーを組織的に記録する試みは日本の美術分野では類例が乏しく、どのような意味があるのか説明が必要だろう。私たちのアーカイヴは、活動の成果であるオーラル・ヒストリーをウェブサイトで公開しているデジタルアーカイヴであるため、デジタルアーカイヴの可能性と課題についても触れたいと思う。
「日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ」の活動
オーラル・ヒストリーとは、語り手が個々の記憶に基づいて口述した歴史である。語り手の活動を、幼少期から現在に至るまで網羅的に聞く点で、特定の目的のために行なわれるインタビューとは異なっている。現在、大学の研究者と美術館の学芸員を中心に12名のメンバーで活動しており(ほかにアメリカ在住の在外メンバーが3名いる)、通例、外部の専門家の協力を得て聞き取り調査を行なっている。2011年1月31日現在、47名の聞き取りを行ない、具体美術協会の故・白髪一雄氏から1973年生まれの照屋勇賢氏まで、23名のオーラル・ヒストリーをウェブサイトで公開している(写真1-3)。
オーラル・ヒストリーの特徴については、かつて『あいだ』170号(2010年3月)に書いたので、詳しくはそちらを見ていただければと思うが、ここで簡単に振り返っておきたい。ひとつは情報の質的・量的な充実である。オーラル・ヒストリーは、通常の商業出版物と異なり、情報量を調整する必要がないし、問いと答えが明確なインタビューと異なり、語りが展開するなかで聞き手だけでなく語り手すら意図していなかった情報が出てくることがある。二つめは権力の分散性である。オーラル・ヒストリーは、東京やその近郊の有名な作家だけでなく、地方で活動する作家、時代の流行に乗らない作家、作家以外の美術関係者などの声を聞くことができる。三つめは、発話行為の事実性である。オーラル・ヒストリーは、語った内容に誤りを含むことがあるが、語ったという事実は確かに存在しており、それに基づく分析が可能となる。このように、オーラル・ヒストリーは、美術の担い手たちの語りを通して、多様な考えが絡み合う日本美術の歴史の厚みを明らかにしていくものである。
私たちは、オーラル・ヒストリーを収集・公開・保存すると同時に、2009年から年に1回、シンポジウムを開催している。シンポジウムは、オーラル・ヒストリーをより多くの人に知ってもらうことを主な目的とし、美術館の学芸員などをゲストに呼んで、2009年は国立国際美術館で(写真4)、2010年は東京藝術大学で(写真5)行なった(前者の書き起こしはウェブサイトで公開しており、後者の書き起こしも近く公開する予定である)。