アートプロジェクト探訪

「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」と「越後妻有2009冬」

白坂由里2009年03月15日号

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 近年、アートがまちづくりに深く関わる場面が多く見受けられるようになっている。しかし、アートはまちの救世主でもなければ万能薬でもないだろう。プロジェクトにおける地域の問題発見や提案は入口に過ぎず、企画、実施、運営までのプロセス、及び終了後に、成果、財産、新たな課題として何が見出されたのか、この検証こそが必要であり、実施者を超えて共有され、語られていくべきものではないだろうか。毎回1プロジェクトを取り上げ、プロジェクト会期中のみならずその前後にも着目し、アーティスト、キュレーター、美術館、行政、企業、市民など、さまざまな人々がどのようにアートプロジェクトにかかわり、そこにどのような動きが起こっているのか、美術ライターの白坂ゆりと文化政策研究の久木元拓との交替連載で報告していきたい。

芸術祭のない年にも継続的な活動を

 山に拓かれた緑の棚田。洪積世から信濃川の流れがつくりだした河岸段丘。 その美しさに感動しながら、山道を登り、アートと出会う。強い日差しに汗をぬぐいながら「疲れた。でも、さわやかだった」と多くの人が口にする。新潟県の 越後妻有(妻有郷)と呼ばれる地域(十日町市と津南町、面積約760平方キロメートル)で3年に一度開かれる国際展「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」。 毎回、国内外から約150〜200組を超えるアーティストが参加し、そのうち会期終了後も残される作品も多く、現在の常設作品は150を超える。イリヤ&エミリア・ カバコフの彫刻《棚田》、宿泊施設でもあるジェームズ・タレルの《光の館》やマリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》など、代表作をいくつも生み出し、妻有 内外の人々に親しまれてきた。芸術祭を体験したことのある多くの人が思い浮かべるのは、この会期中の夏景色ではないだろうか。しかし、越後妻有は四季に よってその姿を鮮明に変える。春は水鏡のように山々を映す水田、秋の収穫そして紅葉、そして日本でも有数の豪雪地帯、越後妻有の雪景色。季節とともに里山 の暮らしがあり、2000年、2003年、2006年と3回の開催を経て、アート作品もまたその営みの中にある。

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作品をめざして田んぼの中を歩く

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イリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》(2006年5月)

 

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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