アートプロジェクト探訪

「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」と「越後妻有2009冬」

白坂由里2009年03月15日号

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 いくつかの集落でワークショップも行なわれ、そのうち10年以上新潟市に拠点を置くアンティエ・グメルスを訪ねた。松代の会沢集落の集会所では、ブナ林 に設置する作品のパーツを制作中。黒板には「大地の芸術祭一座」と書かれ、集中しながらも楽しんでいた。作家も「農閑期に手伝ってくれ、支えられている」 と話す。また、絵本作家の田島征三は、鉢集落の旧真田小学校を丸ごと絵本とする《絵本と木の実の美術館》 を構想中で、卒業生の子どもたちとの対話を行なっていた。子どもの一人が「学校も家と同じようだった」と語っていたが、この木造校舎には先生や友達との思 い出が詰まっている。昨夏には、かぼちゃ七百個を体育館いっぱいに吊るすインスタレーションやかぼちゃパーティを集落の人々とともに行なった。

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アンティエ・グメルス、集落の人々と制作中

 1月には日比野克彦の《明後日新聞社》や、仙納集落にある酒百宏一の《みどりの部屋》で小正月を過ごす企画、3月には願入(がんにゅう)集落にあ る空家を再生したレストラン《うぶすなの家》でひなまつりが行なわれた。秋に訪れたとき、レストランを運営する地元の女性が「自分の住むところを少しでも 良くしたい。けれど、なぜ、違う地域から来た人が越後妻有のために一生懸命やってくれるのかは謎です」と話していた。都市から来る者にはふれあいが楽しいのかもしれないし、はつらつとした自分を発見しているのかもしれない。また、今年2月、JR東日本による信濃川発電所の取水データ改ざんが発覚したように、都市生活の恩恵が地方へのしわ寄せによって成り立っていることに気づいた者が、何か自分にもできることがあれば行動を起こしたいと思うところもある。このような地域にまつわる政治・経済・文化が持つ多様な要素や人々の思いをつなぐことができるのは、やはりアートの持つ力なのだろう。ただ、規模が大きくなるほど資金や人出が必要になり、現在も応援を募っている。今年もまた、大地の芸術祭4回目の夏がやってくる。

越後妻有2009冬

開催地:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760km2
会期:2009年1月〜3月
※3月22日・29日「冬の文化体験プログラム」あり。

越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭

開催地:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760km2
会期:2009年7月26日(日)〜9月13日(日)

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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