2019年09月15日号
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アートプロジェクト探訪

アートシーンや地域に風穴を開ける「遊工房アートスペース」

白坂由里(美術ライター)2010年12月15日号

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継続と自由を両立させる「トロールの森」

 「トロールの森」は、都立善福寺公園を会場に、国内外の作家を迎えて行なわれる野外アート展だ。遊工房が事務局となり、実行委員会形式で運営する地域活動として2002年から毎年行なって来た。2007年からは「まちと森をつなぐかたち」をテーマに掲げてきた。
 2010年の「トロールの森」(会期:11月3日〜23日)では、『不思議の国のアリス』に想を得て鏡文字を用いた仲世古佳伸の立体作品《Your Fantasy》が点在したほか、アートなステージを池畔に設置し、パフォーマンスなどが行なわれた。今年は、海外作家の来日が減るなどの諸事情もあって造形作家の数が少なかったが、10周年にあたる2011年は、これまで以上にインスタレーションなどを増やしたいという。


コトバとオトで遊ぼう!『宮沢賢治〜上ノ池二居リマス』(出演:岡薫、久保恒雄、平岩佐和子)
ステージの制作はnetabarox:井上幸次郎、小沢麻希、小森谷奈保 2010

 「まち」を象徴する遊工房では、O JUNの企画で太田麻里、大田黒衣美、井内宏美、佐藤万絵子の4人が約1週間ずつ個展を行なう「四式」などが行なわれた。「四式」では、「パフォーマンスという言葉を使うのをやめ、名もなき身体から始めてみよう」をテーマに、例えば大田黒は初の朗読劇に挑戦。遊工房で二度目のレジデンスとなる佐藤万絵子は、外光の入るギャラリー入口に色セロファンを張り、中に銀紙を張り巡らせ、日の出前から制作し、開廊時間からは制作を公開した。「セロファンを通した色の光を虹に見立て、銀紙に映る光を吸うようなマットな質感の濃い緑のオイルパステルで、虹色の光をひっかけるように描いていきました。普段は言葉や服や習慣など“防具”で身を守っているのですが、絵を描くとそれが外れるようで怖くなります。鏡のような銀紙を置くことで、描くことから逃げようとする自分を見張っておきながら、映り込む虹の光(=絵、外部)を受けとめていければと思いました。」と佐藤。他の展覧会では、寝袋持参になることも多いが、ゆっくり身体を休める部屋があることがありがたかったという。


佐藤万絵子《防具をはずす(虹を受けとめるために)》2010 撮影=柳場大

 まちなかでぼうっと立っていたら怪しまれてしまうが、気ままに過ごしている人が多い公園には、それなりに包容力や許容量があり、アートとの相性はいいのかもしれない。ただ、作品を設置するとなるとさまざまな規制も見えてくる。公園の安全管理の観点と、アーティストの主張との調和には細心の注意・工夫を凝らしている。それでも当初は一部の住民からのクレームもあったそうで、池面にも作品を設置するなど、特色となっていた表現ができなくなるのは残念だ。
 「一方で、毎年楽しみにしている人もいます。2009年の黒野裕一郎さんの作品は、アクリルの色が地面や池に映り込み、犬の散歩をする主婦の方たち数人から「撤去しないで」と言われてうれしかったですね。作家には、やれる範囲で思い切り楽しんでもらえればと思っています」と弘子氏。
 遊工房隣の桃井第四小学校では、4年生がゲストティーチャーと作品を制作し、ゴールデンウィークの1週間「トロールの森の春展」を開く。こちらももう5年になり、地域にかなり浸透している。


左=小林史子《HOMESHIP》2007 Courtesy of the Artist
右=黒野祐一郎《I.H.K.Y.I.H.K.Y...》2009 撮影=柳場大

 設立10周年を迎える2011年には、アメリカからエティ・ホロウィッツ、フィンランドからアンティ・ユロネン、オランダからヤック・ピーターズ、英国からオーストラリア出身のニッキ・クーツらが再来日する。来年の「トロールの森」にもアンティ・ヤック、日本に長年滞在しドイツに帰国したカトリン・パウルが参加する。「作家とはそれぞれに思い出がある。お互いに成長し、またいい議論がしたいですね」。


カトリン・パウル《早すぎる雪》2009 Courtesy of the Artist(左)/撮影=柳場大(右)

 また、活動が他分野に派生することもあり、2009年は、東京農業大学造園科学科との共催でシンポジウムを行なった。造園科の目的は、アーティストの視点や自由奔放さを学生に知ってもらうこと。「学生にデザインをさせると、予算がこれくらいで、こういう指定があるからと、皆同じようなものしか出してこない。造園設計者を志すなら、柔軟なアイデアを持ってほしいとおっしゃっていましたね」。一方、遊工房で滞在制作を行なったタミコ・オブライエンは、公園の研究家を英国から連れてきた。「イギリスの都市型公園は、市民のマナー教育のためにできたそうです。放っておくと汚れるし、ケンカが起こったりするので、宗教彫刻を置くなどして規律を学ばせる場として。だから、日本の公園がゆるやかな遊びや憩いの場であることがとても不思議だったようで。お互いに面白い発見でした」。

アートを支える活動にも支援を

 「オルタナティブスペースの活動を、どうしたら社会的な器のひとつとして訴えられるか。それが認められると、アーティストという職業が認められる社会になっていくのではないかとも思っているんですよね」と語る達彦氏はJ-AIR Network Forumの副代表を務める。また、世界300カ所のアーティスト・イン・レジデンスのネットワーク「res artis」の運営委員でもある。2年に一度大会が開かれ、2012年は東京が会場となる。
 遊工房ではインターン制度も行なっている。「今後は若い世代につないでいきたいが、助成金はイベントごとの申請で、継続的な活動のための支援を受けることは難しいのが現状です。国だけではなく、企業や個人でも、アートマネジメントやキュレーターの育成をサポートしていただけないかと思います。地域に根差した活動として減税制度などがあると助かりますね」。
 自治体の予算が縮小されるとレジデンス事業も危ぶまれる。「海外でアートマネジメントを勉強した人が、日本で仕事の場があるのだろうかと思います。アーティストももちろん大事ですが、それを支える関連領域も安心して働ける環境が必要だと思いますね」。弘子氏いわく「ピリリと辛いアート活動」を続けるために。多様なアートが生まれるレジデンスやギャラリーでの日々の活動への理解が、「トロールの森」での自由性や実験性につながるのだと思う。

ヘィスン・ジョン「東京奇譚」

会期:2010年12月22日(水)〜26日(日)

金箱淳一「one over eight billion」

会期:2010年12月15日(水)〜26日(日)

ともに会場:遊工房アートスペース

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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