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学芸員レポート

岡本光博「UFO after / 未確認墜落物体 その後」、島本了多「生前葬」、天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」

工藤健志(青森県立美術館)2016年07月01日号

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 むろん「量」としては東京の足下にも及ばないが、ならば地方は「質」で勝負!と言わんばかりに、ここ青森でも、ここ青森でしか見ることのできない良質の展覧会が近年増えてきた。

 このレポートが掲載される7月1日現在も青森市の国際芸術センター青森では「O JUN 展 まんまんちゃん、あん」が(7月3日まで。続く7月30日から9月11日まではアーティスト・イン・レジデンス成果展「普遍的な風景」が開催)、十和田市現代美術館では9月25日まで「シンシアリー・ユアーズ ─ 親愛なるあなたの 大宮エリーより」展が、三沢市寺山修司記念館でも同じく9月25日まで「森山大道写真展 『裏町人生〜寺山修司』」が開催されている。青森県立美術館では7月23日から9月25日まで開館10周年記念の「青森EARTH2016 根と路」が控えている。ガチャガチャとした東京よりもはるかにゆったりと展覧会を見る環境は整っているし、しっかりと「場」に着地させた展示も多く、鑑賞体験としての強度は東京の1本1本と比べても確実に高いと思う。……と言いつつ、今回は青森の展覧会についてはあえて書かない。半端に書くより、ぜひ青森に来て、地域の「磁場」にぴたりと接続した空間と展示を、五感で直に感じとっていただきたい。

挑発するアナーキズム

 ということで、ここでは北海道、東京、福岡で開催された(されている)展覧会を3本紹介したい。北から順に記していこう。
 まずは、苫小牧市美術博物館で開催中の岡本光博「UFO after / 未確認墜落物体 その後」。昨年の夏に青森県美で開かれた「化け物」展の際、突如美術館の前庭に墜落した未確認墜落物体(“Unidentified Flying Object”ではなく、“Unidentified Falling Object”)はSNSで情報が拡散し、各テレビ局のワイドショーでも取り上げられるほど大きな話題となったが、展覧会の終了とともに忽然とその姿を消した。果たして“Flying Object”となって宇宙に戻っていったのか? 気づかなかった人も多いかもしれないが、美術館の排気口の影から心配そうに墜落物体を見つめていたアレはいったい何だったのか?
 と、思わず『ムー』みたいな書きぶりになってしまったが、苫小牧で発見された「その後」のUFOは、なんと「食後」であった。エリア51を想起させる、まるで実験室か標本室のようなガラス張りの吹き抜け空間に、だらしなく食い散らかされた様をさらすUFO。その様子をうかがう謎の生命体はついに堂々と我々の前に姿をあらわす。周囲の壁面には、青森でのありし日の姿やタレの残骸が「タレ幕」として掲示されている。さらに、このラボ的な空間への通路には昔懐かしい傘付蛍光灯のようなアダムスキー型UFOの照明がぶら下がり、コードペンダントの取手部分には丁寧に「牛」まで付いている。と、まるで昭和のベタな超常現象番組を見ているかのような錯覚にとらわれるインスタレーションであるが、仮に岡本光博という作者の名を取り去ったとしても変わらぬインパクトをもつ、強度のあるポップ・アートと言えよう。


岡本光博「UFO after / 未確認墜落物体 その後」展示風景(苫小牧市美術博物館) 
画像提供:苫小牧市美術館



「UFO after / 未確認墜落物体 その後」展示風景(苫小牧市美術博物館)
画像提供:苫小牧市美術館


 しかし、そのユーモラスであまりにもバカバカしい表現は、たとえ19世紀的な芸術至上主義者でなくとも、「これはアートなの?」という疑念が湧くのではないか。やはり大きな注目を集めた《バッタもん》や《SUHAMA》シリーズ等がその典型であるが、岡本はポップ・アイコンを手軽な文化提示の手法として援用するのではなく、その背後にある価値や構造を破壊、あえてもっとも「卑俗」な形として再構成し、見る者を挑発していく。さらに引用されたポップ・アイコンは、その記号の表現と内容が意図的にずらされ、あるいは異質なものと接続されることで、見る者の思考を錯綜させ、価値を混乱させる。その「段差」から生じるさまざまな感情。UFOにおける文字の反転はそれが鏡像であることを示すが、すなわち、そこで生じた感情や解釈の「質」はそのまま自らの知性や教養のレベルを映し出していることになる。そうした効用は紛れもなく「アート」がもたらすものだと言えよう。
 さらに作品のクオリティより作家の知名度が優先するというイマドキのアートの受容のされ方や、アートという制度に守られて矮小な出来事や関係性をテーマにするイマフウの作品に比べると、岡本の活動はむしろアートそのものを破壊しかねないアナーキーさを有している。アートの価値を「表現の自由」に置く向きも多いが、そんなものは単なる反権力を気取るための上手ごかしに過ぎない。この業界内にもちゃんとしたお作法があり、権力構造もあれば、著作権による規制だって存在する。なのに、そこはみなで目をつぶって、相利共生のない外部に対しては「表現の自由」の旗を掲げ、容赦なく攻撃を仕掛けていく。ちょっとおかしくない? と言わんばかりに返す刀でその矛先をアートに向け、その価値に揺さぶりをかけるのが岡本光博という作家であり、そうした存在は国内でも希有であろう。
 このプロジェクトは7月9日よりはじまる企画展「Art and Air〜空と飛行機をめぐる、芸術と科学の物語」のプレ企画でもある。2012年に青森県立美術館で開催した展覧会をリパッケージしたもので、2014年のフェルケール博物館に続いての開催となる。展覧会名とコンセプトのみが同一で、出品作品と展示構成は会場にあわせて変化していくというちょっと珍しい試みであるが、本展の開催と同時に、岡本のインスタレーションはその一部に組み込まれることになる。空への憧れ、空の支配、飛ぶという行為の意味を考える本展の中で、岡本のインスタレーションもまたこれまでとは違う印象を来場者に与えるのではなかろうか。どういった反応があるのか、今から楽しみでならない。

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工藤健志

1967年生まれ。青森県立美術館学芸員。企画展=「縄文と現代──2つの時代をつなぐ〈かたち〉と〈こころ〉」「ラブラブショー」「ロボットと美術...

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