2017年09月15日号
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キュレーターズノート

岡本光博「UFO after / 未確認墜落物体 その後」、島本了多「生前葬」、天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」

工藤健志(青森県立美術館)2016年07月01日号

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人間と映像の関係を探る「映画学」

 そして最後に福岡。天神の三菱地所アルティアムで開催中の天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」について。2005年の第3回福岡アジア美術トリエンナーレ「多重世界」への参加や、「イメージフォーラム・フェスティバル」など、伊藤隆介の作品はこれまで何度も福岡で展示されてきたが、本格的な個展はこれが「初」となる。


天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」展示風景(三菱地所アルティアム)
撮影:古賀亜矢子 提供:三菱地所アルティアム


 伊藤が手がけるビデオ・インスタレーション「Realistic Virtuality/現実的な仮想性」シリーズについては、これまで何回か取り上げているので、その説明は省略。今回のモチーフは1970 - 80年代にブームとなったディザスター・フィルムの数々。今となっては「作り物」然としたチープさが目立つが、あの頃の子供達はそれらをどこか「嘘っぽい」と感じながらもなお、その物語に引き込まれ、恐怖した。映画館だけでなく、ほぼ1日おきに21時から2時間ほどテレビでさまざまな映画が放送され、その後、床についても興奮のあまりしばらく眠れない夜が何度も訪れる。しかし、それは当時の子供の想像力を解放するための重要な時間でもあった、と書いて納得してくれるのは今や40代以上であろう。ここ数十年で映像を取り巻く環境は劇的な進化を遂げているが、コンピュータグラフィックスが進化して虚実の境目が消失すればするほど、映像としての解像度が上がれば上がるほど、視覚を通した脳へのダイレクトな刺激と引き換えに、視覚的に不完全なものを脳内で補完しようとしたり、見えないものを見たいという欲求は低下し、想像力の入り込む余地もなくなってきているように思う。Webを筆頭にさまざまな視覚情報が氾濫する現代において、映像表現は視覚的な快楽追求のための手軽な手法として活用されるが、伊藤はそれを現代の重要な「表現手段」と意識的に捉え、その虚と実の関係性を巧みに用いたビデオ・インスタレーションを構築する。これまで映像メディアは何を掘り下げ、表現しようとしてきたのか。あるいは何を隠してきたのか。そこにはどのようなコンテクストがあり、どんな時代性や思想を反映しているのか。


天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」展示風景(三菱地所アルティアム)
撮影:古賀亜矢子 提供:三菱地所アルティアム


 今回は映画がテーマであるが、伊藤作品の重要な構成要素である模型はむろん映画の特撮セットをそのまま再現したものではない。伊藤のマニアックな知識と独自の視点から抽出された、映画のエッセンスとその特徴的なワンシーンを連想させる記号の集積体としての模型である。さらに模型とカメラにそれぞれ動きを加えることで、そのライブ映像は複雑な「物語」を生み出していく。これら作品を前に、「なんだ、くだらない大衆娯楽映画が元ネタか」と言う人がいたら、それはあまりにも短絡的な見方と言わざるを得ない。ある特定の人種が好むゴダールもブニュエルもフェリーニもベルイマンもヴィスコンティもヴェルトリッチも小津も確かにそこにはない。しかし、1970〜80年代の「時代観」は、ある種の猥雑さに満ちた劇場型の展示空間と相まって、強く体感できるだろう。娯楽映画は特にその時代のテクノロジーや産業構造との結びつきが強く、あえてそこに焦点を絞ることで浮かび上がってくる社会性や人の意識があるはずだ。むしろ娯楽映画は、より多くの人の記憶を刺激し、思考の回路をさまざまに引き出すことが可能なモチーフと言え、ゆえにそれは伊藤が一方で得意とする時事トピックをもとにした作品と本質的になんら変わりはない。伊藤は社会派なのか、それともエンターテイナーなのか? そうした区分けそのものがナンセンスであることを本展はよく示していたように思う。


天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」展示風景(三菱地所アルティアム)
撮影:古賀亜矢子 提供:三菱地所アルティアム


 特に今回の展示は個々のビデオ・インスタレーションの連なりが空間全体を包み込んでひとつの壮大なインスタレーションとなっていく、宇宙的な構造をもっている。多種多様なパニック映画を追体験し、「十戒」の割れた海を抜けて最後に我々が目にするのものは果たして?……まだ会期中なのでネタばらしはここでは控えておこう(まさに映画的!)。ただ展示室の奥にそびえ立つブリコラージュ的オブジェは、まさに伊藤にしか発想のできない、必見のガジェットタワーであることだけは記しておきたい。あの頃恐怖した虚構の世界が、21世紀の今、現実のものとなって我々の前に立ちはだかっている。過去と現在の相互俯瞰により、フィクションとリアルが錯綜しながら、見る者の思考を覚醒させていく伊藤作品の高い文明批評性は、この「エンディング」からも強く認識できることだろう。


展覧会メインビジュアル
作画:上田信


 今回の展覧会の告知には映画の宣伝手法が取り入れられている。メインビジュアルは手描き看板広告風で、チラシのサイズはB5。そこには映画広告的な煽り文句が並ぶ。そしてお約束の予告編。で、すべてのオチは「これは美術展です!」。映像作家であり、美術作家でもある伊藤の仕事と今回の広報物はぴったりマッチしていると思うし、さらに展示を見た後でメインビジュアルを読み解けばさらに展覧会の理解が深まる仕掛けになっている。

 楽しいですねえ。すごいですねえ。ということで、それではみなさままた3ヶ月後に。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラー。

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岡本光博「UFO after / 未確認墜落物体 その後」

会期:2016年4月23日(土)〜9月4日(日)
会場:苫小牧市美術博物館
北海道苫小牧市末広町3-9-7/Tel. 0144-35-2550

島本了多「生前葬」

会期:2016年5月14日(土)〜6月11日(土)
会場:eitoeiko
東京都新宿区矢来町32-2 /Tel. 03-6873-3830

天神洋画劇場 伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」

会期:2016年6月4日(土)〜7月3日(日)
会場:三菱地所アルティアム
福岡県福岡市中央区天神1-7-11 イムズ8F/Tel. 092-733-2050

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工藤健志

1967年生まれ。青森県立美術館学芸員。企画展=「縄文と現代──2つの時代をつなぐ〈かたち〉と〈こころ〉」「ラブラブショー」「ロボットと美術...

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