2017年09月15日号
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【パリ】ピースクラフツSAGA×REVELATIONS 2017──ファインクラフト運動最前線──後編

オード・タオン(フランス工芸作家組合会長)/アンリ・ジョッベ・デュバル(レベラション総合キュレーター)/下川一哉(デザインプロデューサー、エディター、意と匠研究所代表)2017年07月01日号

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 2017年5月4日から8日まで、仏パリの国立ギャラリー「グラン・パレ」で開かれた国際工芸フェア「REVELATIONS(レベラション)」には、約380組の出展者が16カ国から参加した。いま、工芸の最前線で何が起きようとしているのか、レベラションの主催者に聞いた。(聞き手:下川一哉)
(前編はこちら


レベラションの主催者
レベラシオンを主催するフランス工芸作家組合オード・タオン会長(左)と、レベラションの総合キュレーターを務めるアンリ・ジョッベ・デュバル氏(右)
写真:Julie Rousse


下川一哉──今回、日本のピースクラフツSAGA(NPOピースウィンズ・ジャパンが伝統工芸支援のために佐賀県で立ち上げた事業)が出展した国際工芸フェア「REVELATIONS(レベラション)」を主催するフランス工芸作家組合(Ateliers d’Art de France)が推進するのは、ファインクラフト運動ですね。これは、ピースクラフツSAGAが掲げる「工芸最先端宣言!」同様、伝統を基礎に工芸を進化させ、新たな市場を形成する考えと言えます。まず、オード・タオン(Aude Tahon/フランス工芸作家組合会長)さんにお聞きします。フランスの工芸界の現状や新しい動きについて、教えてください。

工芸界の危機を乗り越えよう!

オード・タオン──いまフランスでは、日本同様、伝統工芸が危機に直面しています。しかし、その一方で、工芸作家や職人は、素材に向き合うクリエーターとして新しい作品を作っていくことに価値を見出し始めています。難しい点は、個々の作家や職人の活動が小規模で、市場に対応できていない点です。つまり、自分の作品を伝え、売っていく困難さに直面しています。だからこそ、われわれ組合は、工芸作家や職人と市場を直接つなげるレベラションのような運動に取り組んでいるわけです。工芸の買い手や売り手と、作家や職人が直接つながる場を作っているんです。



ピースクラフツSAGAのブース
弓野人形の江口人形店が展示したオブジェ「乙姫」シリーズ。仏人デザイナーのディレクションにより、亀の甲羅(青)、鱗(金)、尾に付いた藻(白)をモチーフに作品化した
写真:Julie Rousse


下川──日本にも同様の動きがあります。同時に、工芸作家自身が何か変わっていかなければならないのではないか、あるいは新しい挑戦をしていかなければならないのではないかという機運が高まっています。ピースクラフツSAGAがレベラションに出展したのも、そう考えるからです。フランスでも同じですか?


タオン──日本の工芸作家や職人とこれまでに何度も話をしたことがあります。日本では、10年くらいの経験があって初めて作家や職人と呼ばれるようになります。しかし、いったん、作家や職人になると、その世界に閉じこもってしまうような傾向があるようにも見えました。いまフランスでは、工芸作家や職人がデザイナーになる必要はないと思いますが、「素材に向き合うアーティスト(artiste de la matière)」を目指し始めています。伝統をベースに新たな表現や技法を見出す挑戦です。私は、素材とクリエーションがあって初めてアートと呼べると考えています。これまで同様に彼らをアルチザンと呼んでしまうと、日用雑貨やパンや惣菜など食品の作り手と区別がつけられなくなります。だから、素材に向き合うアーティストと呼ぶことで、新しい価値を創造する存在としてPRしています。



ワークショップ
フランス靴協会は、ブースで子供向けのワークショップを実施。素材の特性や道具の使い方を優しく説明。説明に当たっているのは、義足を作る職人。フランスの工芸の幅広さを感じさせる
写真:下川一哉


下川──タオンさんは、ファインクラフトという言葉も頻繁に使われますね。これは、ピースクラフツSAGAが掲げる「工芸最先端宣言!」に通じる考え方だと思います。クラフトとファインクラフト、あるいはファインクラフトとアートの関係をどのように理解すればいいでしょうか?


タオン──われわれはいま、素材に向き合うアーティストを目指しています。そんなわれわれが作る作品をファインクラフトと呼んでいます。これまでのクラフトより高い創造性を持ち、アートに匹敵する価値を持つための新たな挑戦です。この分野は、経済的にも成長分野だと信じています。あなたもそうお考えでしょう?


下川──はい、そのとおりです。今度は、アンリ・ジョッベ・デュバル(Henri Jobbé-Duval/レベラションの総合キュレーター)さんにお聞きしたいのですが、レベラションは今回で3回目の開催になります。このレベラションが生まれた背景とその目的について教えてください。


アンリ・ジョッベ・デュバル──とにかく、ファインクラフトの存在と価値を世界中の人たちに見てもらいたいという思いで立ち上げました。また、世界中のあまり知られていないファインクラフトをアピールしてもらうことにも大きな意味があります。それは、われわれのファインクラフト運動を世界中に広げるためです。そこで、第1回の開催から、名誉招待国という制度を設けました。その国独自の素材を通じて、固有のファインクラフトを知ってもらおうというわけです。第1回の名誉招待国はノルウェーで、2回目は韓国でした。そして3回目の今回、チリを名誉招待国に選んだのも、こうした意図があるからです。
 名誉招待国や一般展示ブースとは別に、バンケという展示ゾーンも設けました。これは、国ごとに1エリアを構成しますが、作り手がデザイナーであっても、国宝級の作家であっても、若手であっても、平等に展示しようという試みです。今回は、11カ国がバンケに参加しています。これらのほかに、ショーケースという出品スペースがあります。国単位ではなく、個人で出品できるスペースです。限られたスペースですが、個人にも門戸を開いているんです。レベラションの真の魅力は、様々な作り手が顧客と直接対話できる点です。名誉招待国制度もバンケもショーケースも、こうした接点作りのための仕掛けなんです。


左:バンケ
レベラションの会場中央にレイアウトされたバンケのゾーン。ガラスドームの真下に位置し、オープンで印象的な展示が可能。写真は、韓国の展示

右:チリのファインクラフト
今回、名誉招待国となったチリからの出品作品。素材の選び方や使い方に、その国ならではのファインクラフトのあり方が見て取れる
写真:下川一哉(2点とも)

繊細でエレガントな日本の工芸に期待

下川──日本の工芸に対して、お二人はどんな印象や評価を持ってらっしゃいますか?


ジョッベ・デュバル──日本の工芸の特徴は、日常生活との関わりにあると思います。日本では、美術作品のような工芸品を日常の道具として使っていますね。暮らしに根ざした美があると思います。そこには、作り手と使い手の対話が継続しているのだと思います。これは、素晴らしいことです。また、素材の使い方にも特徴があります。素朴な素材を使いながらも、表現や技法は繊細でエレガントです。そこには作り手の誠実な姿勢が見て取れます。ピースクラフツSAGAのブースに展示されている作品にも、そう感じました。


タオン──そうした意味で、日本には素材に誠実に向き合う作り手がたくさんいると思います。いま必要なのは、そうした作り手をつなげて、未来に向けて発信していくことではないでしょうか。レベラションはそうした活動の受け皿になりたいんです。レベラションには、3回続けてきた蓄積がすでにあります。素材に向き合うアーティストやファインクラフトといった考えも根付いてきました。そうした環境に魅力を感じ、共感してもらえるのであれば、日本の工芸界や支援機関の方々からいろんな提案を受けたいと思います。できれば、一緒に、何かを創造するような取り組みが望ましいのではないでしょうか。
 われわれが重視しているのは競争ではなく、対話です。世界中の優れた作り手が、固有の価値を持ちながら、レベラションに集うほかの作り手との対話を通じて新しい価値を作ることが最終目的です。そこには新しい世界と市場が生まれると信じています。2019年の第4回大会では、対話と共創がさらに加速すると予測しています。日本の作り手の方々は、自身の力や価値を信じて創作を続け、ファインクラフト運動の仲間になってほしいと思っています。


ショーケースの作品
ショーケースのゾーンでは、作家や職人個人で出品可能。絢爛豪華なエレキギターの出品に、関心が集まった
写真:下川一哉


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ピースクラフツSAGA×REVELATIONS 2017

日時:2017年5月4日(水)〜8日(月)
会場:グラン・パレ(パリ)
主催:アトリエ・ダール・ド・フランス(フランス工芸作家組合)

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オード・タオン

Aude Tahon。1973年、ブルンジ生まれ。フランス工芸作家組合会長。

アンリ・ジョッベ・デュバル

Henri Jobbé-Duval。1949年、レンヌ生まれ。レベラションの総合キュレーター。

下川一哉

デザインプロデューサー、エディター 1963年、佐賀県生まれ。1988年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年、日経マグロウヒル(現 日...

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