アート・アーカイブ探求

熊斐《登龍門図》中国名画受容のエネルギー──「成澤勝嗣」

影山幸一

2012年03月15日号


熊斐《登龍門図》江戸時代・宝暦年間(1751〜1764)頃, 絹本着色掛軸装一幅, 129.7×53.0cm,
長崎歴史文化博物館蔵, 無許可転載・転用を禁止

逆流に挑む

 もうすぐ春が来るということを雛祭りを飾った街のショーウインドウが気づかせてくれる。すると次は鯉のぼりとせっかちな連想が浮かぶのは毎年のことだ。日本の四季が春にならない冬はない、と気持ちを癒してくれる日常だったが、3.11から1年、壊された日常のリアリティの深刻さに、現実のほうが何かとらえどころがない。平穏な春の到来のリアルを求めて、図録を繰ってみた。
 突然目に飛び込んできたのが滝を上る威勢のいい鯉の絵だった。初めて見たその画家の名は、中国人だと思ったがどうも日本人のようなのだ。熊斐(ゆうひ)という絵描きの《登龍門図》(長崎歴史文化博物館蔵)である。文化の華が開いた江戸時代にあっては珍しくない絵柄なのかもしれないが、現代の目で見ると生き生きとした壮快な絵に見える。逆流に挑むその鯉の姿に元気を得た。
 いったい熊斐とは誰なのか、登龍門の意味は何なのか、日本近世絵画史を専門とし、長崎派の展覧会の企画なども行なっている早稲田大学文学学術院の成澤勝嗣准教授(以下、成澤氏)に《登龍門図》の見方を伺ってみたいと思った。雛祭りの前日、早稲田大学戸山キャンパスへ向かった。


成澤勝嗣氏

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