ミュージアムノート
Museum Indifferent to Walls
光岡寿郎2009年02月01日号
さて、本年度はミュージアムとアーキテクチャーを緩やかなテーマにしてきた。そこで最後に物理的なアーキテクチャーを離れ、ミュージアムのヴァーチャルなアーキテクチャーについて考えてみたい。
Museum Without Walls
ミュージアムとメディアとの関係性を扱った古典的な著作のひとつに、アンドレ・マルローの『空想の美術館』★1がある。要点をかいつまめば、複製技術、とりわけ写真の媒介によって、美術作品の鑑賞や所有の様態に変化が生じるというものだ。特に写真が可能にした作品のサイズの変更(拡大・縮小)は、いままでではスケールの問題から難しかった作品間の比較を可能にした。つまり、写真であれば学術的な意義があっても実際には不可能な、例えばバロック建築とバロック美術を同じ展示室(実際には同じ見開きだろうか)に配置することができるようになる。恐らくマルローが意識していたのは、空間や写真集といったメディアそのものではなく、そもそもミュージアムは個人の志向に基づくモノの集合≒分類体系であり、複製技術によってその理想により接近できるという感覚だったのだろう。いわば、物理的にミュージアムを支えるアーキテクチャーに対して、そこに提示される概念的なアーキテクチャーとしてのタクソノミー(分類学)の重要性に注目していたと。この『空想の美術館』は原語のフランス語から英語に訳される際にMuseum Without Wallsと訳され、デジタル・テクノロジーが1990年代に社会へと浸透すると、ヴァーチャルミュージアムや遠隔教育のプロジェクトの標題としてしばしば利用されるようになる。