会期:2024/02/17~2024/05/12
会場:東京都庭園美術館[東京都]
公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/240217-0512_a-to-z/

東京都庭園美術館へは、私はこれまでに何度も訪れたことがあった。そこが旧朝香宮邸であることは当然ながら知っているし、アール・デコ様式を取り入れた建物であることも把握している。そのため「旧朝香宮邸をじっくりと読み解く」という主旨の本展に、当初、さほどピンときていなかったのだが、実際に観覧してみるとなかなか見応えがあった。同館で何かの企画展が開催されている際には、展示品に集中してしまうため、その展示室である建物は目に入ってくるものの、あまり注視してこなかったというわけだ。国指定の重要文化財であるのに、実にもったいないことをしてきたと反省する。

朝香宮邸正面玄関 1933年頃[撮影:松井写真館]

タイトルのとおり、本展ではAからZの頭文字で始まるキーワードを用いて、各室の魅力を解説している。といっても観覧順に沿ってアルファベットがAから連なっているわけではない。観覧の際には会場マップと、各室に設置されている解説カードをぜひ手にしてほしい。キーワードとして取り上げられている内容は、実に詳細なものが多い。例えば正面玄関に設えられたガラスレリーフの扉は、フランスのガラス工芸家、ルネ・ラリックが造作した特注品であるのだが、これには「SATINE(サチネ)」というキーワードが当てはめられている。この聞き慣れないSATINEとはフランス語で「絹のような」という意味で、ガラス表面の仕上げに用いられた滑らかな艶消し加工のこと。この質感をラリックは「SATINE」と呼んで愛でていたというのである。

東京都庭園美術館本館 妃殿下寝室ラジエーターレジスター

東京都庭園美術館本館 大広間

このように各室の随所にある装飾品や壁画をはじめ、壁紙や床材、タイル、家具、扉、照明器具、ラジエーターなどへの丁寧な解説があり、同館が非常に手を掛けてつくられた建物であることを知らされる。かつてフランスの装飾芸術家、アンリ・ラパンと日本の宮内省匠寮らによって生み出された唯一無二の室内装飾や設えが、時代を超えてなお、観る者に感動を与え続けていることにたじろいでしまう。当然、旧宮家の存在や威信がいまよりも強い昭和初期だったからこそ成し得た事業であるし、それが日本での文化の醸成や技術の促進につながったのであれば意義もあるように思う。さらに新館ではおさらいとして旧朝香宮邸の間取りが床に大きく示されていて、それを眺めるうちに、同家の方々の暮らしぶりについても想像を掻き立てられてしまった。そんな風に、ある一家の人間模様の舞台として同館を眺めてみても楽しい。


東京都庭園美術館本館 姫宮居間


鑑賞日:2024/03/28(木)