会期:2024/05/18~2024/07/15
会場:東條會館写真研究所[東京都]
公式サイト:https://www.instagram.com/tojo_kaikan_photo_lab/

これ、どうやって撮っているんだろう? 全日空の機内誌『翼の王国』に連載されていた写真を何度か目にする度にずっと気になっていた。東京タワーや東京駅丸の内駅舎など、見慣れた東京の風景であるはずなのに、何かが違う。その違和感に真っ向から応えてくれたのが本展だ。

《beach, Miami》(2008)

ミニチュアのジオラマ写真のようだと評判を呼んだ写真集『small planet』(リトルモア、2006)で木村伊兵衛写真賞を受賞した本城直季について、正直、私は何も知らなかった。だから本展で、遠景が近景のように見える“種明かし”がされているのを観て、素直に驚いたし、合点がいった。ようは大判カメラの機構を利用し、レンズとフィルム面を傾けてアオリの状態にすることで、ピントが合う範囲を極端に制限して撮影しているというわけである。人間の目は近くのものほどわずかな前後差でもピントがズレやすく、遠くのものほど全景にピントが合いやすいという原理から、遠くを写しているのに周囲がボケていると、まるで近くを見ているように脳が錯覚する。それで本城の作品は、本物の景色を写しているにも関わらず、小型の模型のように見えるのだ。それゆえに普遍的な住宅街も、高速道路も、コンテナも、プールサイドも、運動場も、どれもかわいらしく思えるから不思議である。「小さきものは、みなうつくし」の心理となる。

展示風景 東條會館写真研究所[撮影:本城直季]

本展ではそんな種明かしに始まり、ルーペを使った近景と遠景を行き来する体験などがあり、最後に人間の眼で見ることとカメラの眼で見ることとは何かを問う。「直径2.5cm」とは人間の眼球の大きさのこと。ただ単に撮影のギミック的な話に終始するのではなく、そもそも見ることと、知覚することや認識することとの違いについて触れるのだ。そう、実際に人間の眼が意識して見ている範囲は限られていて、それ以外は見えているけれど見ていないことが多い。心理学ではそれを「図と地」と言い表わす。カメラの眼で言えば、図にはピントが合っているけれど、地には合っていなくてボケているのである。そう考えると、本城の作品は案外、リアルな人間の眼を再現しているのかもしれないと思えてくるのだった。

展示風景 東條會館写真研究所[撮影:本城直季]

鑑賞日:2024/05/25(土)