前回の編集雑記にレビュー執筆者入れ替えの件がありました。ここでは、新規で自分が担当することとなった執筆者について紹介していきたいと思います。

毎月の1、2週目など、おおざっぱに分けて月の前半に公開される記事を執筆いただく新たな書き手のひとりは、松房子さんです。松さんは批評誌『エクリヲ』や『ユリイカ』をはじめとする各種の媒体でもご活躍中で、弊サイトartscapeでは主に写真や映像のジャンルに関するレビューをご担当いただけそうです。

そんな松さんによる展評の初回は、「石川真生 私に何ができるか」を対象としたもの。連続的に開催された前後の展覧会への言及も含む立体的なレビューとなっており、また作品で扱われている歴史的事象もフォローくださっています。今年の8月には石川真生を追ったドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』が公開されるそうですから、個人的には映画の予習となりました。

つぎに、原ちけいさんを紹介させてください。原さんの原稿は主に月の後半に公開される連載となります。これまで寄稿なさった媒体には『BRUTUS』『FASHIONSNAP』『IMA』『POPEYE Web』『Them magazine』『Tokyo Art Beat』(アルファベット順)などがあり、大衆的なファッション誌から写真の専門誌まで幅広い執筆歴をお持ちです。弊サイトでご担当いただくのはファッション関連の展示や写真展、美術展などになりそうです。

原さんの書き手としての持ち味は、ジャンルも媒体の硬軟も横断なさる軽やかさであるように感じています。そこに惹かれて連載をお願いするに至りました。6月分のレビューでも、プライベートな雰囲気と社会的な問題意識の両面から対象にアプローチされています。前者は建築家・大室佑介氏による私設美術館へ寄せる詩的な情景が印象的な「再生活」展のレビューとなっており、後者は青山学院大学ジェンダー研究センターを会場とした「共創の場:ジェンダー問題とアジアのアート・コレクティブ」展のものです。

そしてもうひとり、青山新さんという書き手にも8月からレビュー執筆の一角を担っていただきます。青山さんはデザイナー・リサーチャー・ライター業にそれぞれ従事しながら、SFジャンルの週刊ウェブマガジン「anon press」で編集長もなさるという多面的な活動を展開なさっています。当初は、他媒体の編集長にライティングの連載を依頼するのは少し気が引けるところもありました。しかし、アートやデザイン的な実践のなかにSFやフィクショナルな手法が介在して久しい昨今の状況において、青山さん独自の視点から美術展やデザイン展を扱っていただきたいとの思いから、打診をさせていただいた次第です。

初回の展評では「八木幣二郎 NOHIN: The Innovative Printing Company」展を取り上げていただく方向で調整しています。これはグラフィックデザイナーによる野心的で挑発的でもあるような個展で、会場はギンザ・グラフィック・ギャラリーです。DNP(大日本印刷)が運営するギャラリーにおいて、八木氏は〈NOHIN〉という架空の印刷会社を主題としたフィクショナルなデザイン展を構成しました。具体的な展示物には、〈NOHIN〉社の社史を示す年表や同社のコーポレート・アイデンティティを表わすレターセットなどがあり、虚構を「いかにもありそう」と感じさせるうえでデザインの手法が生きています。同展に対して、青山さんがどのようなアングルから切り込むのか、担当編集としてもいまから楽しみです。

以上、新レビュアーのご紹介となりました。新年度から装いを新たにした弊サイトですが、中身の変化を伴っていよいよリニューアル後の新体制が定着しつつあります。読者のみなさまには心機一転、新たなレビュアー陣による新たな対象のピックアップをお楽しみいただけましたら幸いです。(o)

「八木幣二郎 NOHIN: The Innovative Printing Company」展 展示風景[撮影:artscape編集部]