会期:2024/06/12~2024/07/28
会場:東京国立博物館 表慶館[東京都]
公式サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=11080
カルティエが日本に最初のブティックを開いてから50年を迎える今年、それを記念する展覧会が開催された。「カルティエと日本」「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」という二軸で、それぞれの絆を紐解く内容であるが、本展を観て強く感じたのは、フランスと日本とのパトロネージュ活動の違いである。まず「カルティエと日本」では、1世紀以上にわたり、カルティエのクリエーションが日本の伝統工芸にいかに影響を受けてきたのかについて、ジュエリーや時計などの宝飾品を通して語られる。そもそもヨーロッパにはジャポニズムの流行があったわけだから、その影響は至極、自然な流れのように思えた。ところがカルティエは一時的なブームに留まらず、誤解を恐れずに言えば、現代までずっとジャポニズムへの傾倒が続いてきたのではないか。それが「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」へとつながっているように私は受け止めた。
展示風景 東京国立博物館 表慶館[© Cartier]
1984年に創設されて以来、カルティエ現代美術財団は日本人アーティストやクリエーターの発掘や支援に力を注いできた。もちろん同財団は日本だけでなく世界中に目を向けているが、日本との関係は密接だ。本展では横尾忠則や森山大道、杉本博司、三宅一生らの作品が並ぶと同時に、これまでに日本で開催されてきた展覧会を振り返る。その顔ぶれを見ると、同財団が注目するのはアートシーンのみならず、写真、デザイン、ファッション、建築など多岐にわたっており、いずれも日本を代表するトップクリエーターばかりである。委託制作や作品購入、展覧会の場の提供など方法はさまざまだが、日本国内でこれほど幅広く手厚いパトロネージュ活動をしている企業や団体はほかにほぼない。当然、財力の違いはあるにせよ、これは文化活動への成熟した眼差しがなければできないことである。
展示風景 手前は北野武《Untitled》(2023)、東京国立博物館 表慶館[© Cartier]
澁谷翔《日本五十空景》(2024)展示風景 東京国立博物館 表慶館[© Cartier]
日本はものづくり大国であるが、それを世界に向けて売り込む力はさほど強くない。一方、フランスは自国文化や商品を世界に向けて売り込むためのブランディングに長けた国である。優れたクリエーターを日本で発掘し、彼らを支援して作品を世界へ発信するという同財団のパトロネージュ活動に、その縮図が現われているようであった。本展でカルティエは日本文化への敬意を表わし、日本との親密な関係性に触れる。しかし一歩引いて見れば、そんな日本への擦り寄りもすべてカルティエのブランディングの一環であると思うと、輝かしい展示のなかにも商売っ気がやや感じられてならなかった。
鑑賞日:2024/06/27(木)