発行所:角川書店
発行日:2025/03/12
公式サイト:https://www.kadokawa.co.jp/product/322412000307/
(前編から)
歴史を辿りながら特撮とアニメの関係を自身の体験も交えながら跡づけていく氷川であるが、テレビまんがからアニメへと呼称が変化していくなかで、特撮がそこから除外されてしまったのではないかと述べ、その切断を1978年に創刊された雑誌『アニメージュ』(徳間書店)に求めている。
ここにおいて著者のアプローチはメディア論的なものも含んでいることが理解されるだろう。同誌は創刊号表紙にあるように「選びぬいたアニメ情報マガジン」として展開されるものであった。そしてアニメに注力しながら、当時は裏方に過ぎなかったスタッフに光をあてることで、富野由悠季や宮﨑駿といった人物たちの個性を見出していく。いっぽう特撮のシーンでも新しい動きが立ち上がっていく。ムック本『ファンタスティックTVコレクションNo.2 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマン ウルトラQ ウルトラセブン』(朝日ソノラマ、1978)をひとつの画期として、子どもの夢を壊さないように編集されていた従来の特撮言説から脱却し、制作における内外の事実を可能な限り網羅した同書によって、特撮の価値が言説として定着したと著者は述べている。
これらのメディア的事象が積み重なった結果、80年代前後には両者が分離していく状況が生じ、それが現在も(大勢としては)続いている。しかしこの『空想映像文化論』の最後において、氷川が特撮とアニメの融合の事例として、アニメーターの金田伊功の名前を挙げていたのは興味深い。金田はアクションやエフェクトの作画において一時代を築いたアニメーターであるが、彼の描くビームの光線について氷川は着目している。ここで著者は金田に影響を与えたクリエイターとしてウルトラマンのスペシウム光線を手がけた飯塚定雄の存在を挙げ、さらに『ヤマト』のエフェクト作画の一部は、特撮でも使用されるオプチカルプリンター(光学合成機)を使用していることにも触れる。こうしてアニメと特撮にみられる相互の影響関係が説明されるのである。
アニメ・特撮研究家として解説的な仕事も多い氷川であるが、そのテキストには一貫して技術に対する目配せが散りばめられている。明治大学大学院で担当している特撮の講義においても、秋学期は技術にフォーカスして授業を行なっていると明かしている★3。そのことを踏まえると、特撮と聞いてすぐに思い浮かべるような怪獣やメカではなく、エフェクト作画に着目することでその本質を技術に還元し、アニメへと架橋することが同書の企図だったことが明らかになるだろう。
ところで、氷川は前著『日本アニメの革新──歴史の転換点となった変化の構造分析』(角川書店、2023)において、「世界観」をキーワードに作品内外の事実や言説を体系化し、歴史を書き直すという仕事を行なっていた。『空想映像文化論』はそうした著者のスタイルが、どのような苗床から育まれたものなのかを明らかにしている。『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』(2021)や『GRIDMAN UNIVERSE』(2023)といった特撮と関わりの深いアニメは近年も存在感を放っており、同書はこれらの諸作について考えるためにも、目を通しておきたい一冊だと言えるだろう。
★3──加藤結人「第1回 特撮研究シンポジウム 実施報告レポート 神谷和宏+坂口将史+中村祐二+氷川竜介+真鍋公希+三好寛」、『アニメのモノグラフィ アニメ研究〈ブックレビュー〉23冊』[サブカル・ポップマガジン まぐま Private Brand 15]蒼天社、2025、38頁
執筆日:2025/06/08(日)