会期:2024/07/20~2024/09/01
会場:二子玉川ライズ スタジオ & ホール[東京都]
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/24_suzuki/
夏休みの宿題の自由研究に悩む子どもたちにとって、Bunkamura主催の本展はうってつけのように思えた。アーティストの鈴木康広が自身の創作源のひとつである「見立て」の手法を紹介し、それによる「発見」を促す内容となっていたからだ。そんな子どもでもトライできるような敷居の低さがありながら、決して子ども騙しのレベルではないのが彼の作品の魅力である。
中央にドンと鎮座する《空気の人》をはじめ、《ファスナーの船》や《まばたきの葉》など、会場には代表作から新作まで約50点が展示されていた。一つひとつを追って観ていくと、いずれの作品も日常でのささやかな発見や見立てから出発していることがわかる。海上を進む船とその航跡がファスナーのように見えたことから着想した《ファスナーの船》や、くるくると舞い散る葉の表裏に開閉する目を描くことで、まるで瞬きをしているように見える《まばたきの葉》など、私も何度か観たことのある2作を例に取ってみても、視点がとてもピュアで、表現が詩的なのである。また、彼自身の幼年時代の思い出とも直結している《りんごのけん玉》は、地球の引力を伝える作品であり、東日本大震災を経て制作したという《日本列島の方位磁針》は、地球の磁力を伝える作品である。これらに秘められたメッセージには、物理的で、根源的な問いがある。
展示風景 二子玉川ライズ スタジオ & ホール
《まばたきの葉》(2003)
《近所の地球 旅の道具》(2016)ほか
《ファスナーの船》(2004)
さらに、哲学的な問いを含んでいる作品が《現在/過去》および《ここ/そこ》と記された判子だ。「現在」と記された判子を押すと、「過去」と印字される。つまり判子を押す瞬間は現在であっても、押した後はすでに過去になるという時間の経過が表現されているのである。同様に「ここ」と記された判子を押すと、「そこ」と印字されることで、判子の物体に生じているわずかな距離が示唆される。似たような作品に、どこからが上で、どこからが下になるのか、その表裏一体の様子を表わした彫刻《上/下》もある。このように子どものようなピュアな視点を持つことで、物事の核心により迫れることを彼は知っている。それをアートへと昇華し、人々の心にちょっとした驚きと感動をもたらすところが心憎いのである。
鑑賞日:2024/07/31(水)