会期:2024/09/27~2024/11/24
会場:東條會館写真研究所[東京都]
公式サイト:https://www.instagram.com/tojo_kaikan_photo_lab/

写真とはいったい何なのか。通常、我々が考える写真の概念を揺さぶるような、実験的なインスタレーションが本展では繰り広げられていた。まず写真家の北野謙は、写真を「写す」や「撮る」という言葉ではしっくり来ないといい、一番ピッタリするのは「現れる」という。自分のコントロールを超えた領域にアクセスできるのが、写真の特徴であるというのだ。確かに彼の作品は、独特の技巧により生み出された、人間の視覚では捉えられない抽象的なビジュアルが多い。

そもそも私が本展へ足を運んだきっかけは、「あらゆる写真はやがて遺影になる」という言葉が胸に突き刺さったからだった。個人的な話になるが、今年、そんな体験をしたからである。さらに「写真は未来につながっている」「写真を通して、未来の他者とコミュニケーションしている」という言葉も妙に納得できた。例えば祖父母や両親の若い頃の写真を見たときなど、そんな不思議な気持ちになったことはないだろうか。

東條會館写真研究所の歴史ある建物をフルに活用した本展では、B1F、3F、5F、6Fのフロアを下がったり上がったりしながら、「未来の部屋」「写真の部屋」「現在の部屋」「百年後の部屋」「過去の部屋」へと誘導される。生身の乳児をそのまま印画紙に写し出した「未来の他者」や、冬至から夏至までの約半年間の長時間露光によって、無数の太陽の光跡を写し取った「光を集める」など、そこには北野の代表的な作品が展示されていた。それらに対する驚きや感動ももちろんあったが、脳がだんだん騙されていくというのか、まるでエレベーターというタイムマシンに乗って本当に時空を行き来しているような気分にもなった。

特に「過去の部屋」と「百年後の部屋」で展示されていた、彼自身が旅して出会ったという人々の肖像と言葉は身に染みた。それらはぽつぽつと何気なく発された本音なのだろうが、だからこそ重い。写真は基本的にドキュメンタリーである。インタビューによって引き出された言葉も同様にドキュメンタリーであり、それゆえの重みがあった。これが時空を超えた他者とのコミュニケーションなのかもしれない。


展示風景 北野謙「未来の他者」

展示風景 北野謙「自転する星の上で、」


展示風景 北野謙「百年後を見る人」

鑑賞日:2024/10/26(土)