会期:2024/10/12~2025/01/05
会場:東京ステーションギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202410_conran.html

テレンス・コンランは、ある意味、ウィリアム・モリスと似たような影響力を社会に与えた人物なのではないかと、本展を見ながらつくづく感じた。モリスは壁紙などの装飾美術から出発し、後にモダンデザインの父と呼ばれた人物として知られるが、コンランもテキスタイル・デザインから出発しながら、分野を越えてビジネスを大きく広げ、革新を遂げてきたからだ。と考えていたら、彼のプロフィールに「バウハウスやアーツ・アンド・クラフツに影響を受け」とある。やはり、そうなのか。

コンランと彼がデザインした「コーン・チェア」、1952年撮影 、レイモンド・ウィリアムズ・エステート蔵[Photo © Estate of Raymond Williams / Courtesy of the Conran family]

コンランは非常に広い視野で物事を捉えることのできる、言わばプロデューサー的な視点を持ったデザイナーだ。日用品や家具のデザインから、ライフスタイルショップの経営、レストラン事業、出版業、街の再生まで、驚くべき多才ぶりである。まさに英国社会を牽引しただけでなく、日本もその影響をしっかりと受けた。ご存知「ザ・コンランショップ」は日本におけるライフスタイルショップの走りとなり、今年で日本初出店から30年の節目を迎える。

本展はそんなコンランの生涯にわたる活動と人物像に迫った日本初の展覧会である。彼は「Plain, Simple, Useful(無駄なく、シンプルで、機能的)」を自身のデザイン思想とし、ウィリアム・モリスの時代とは異なる20世紀型、そして21世紀型のモダンデザインのあり方を目指した。たぶん、それは物が飽和状態の社会だからこそ掲げられた理想だ。時代は異なっても両者の間で共通するテーマは、人々の豊かな暮らしである。それはデザイナーにとって永遠の使命と言っていい。

バートン・コート自邸内の仕事部屋、2004年撮影[Photo: David Garcia / Courtesy of the Conran family]

改修されたミシュランビル(レストラン「ビバンダム」とザ・コンランショップ、1987年改修)[Courtesy of the Conran family]

ところで、本展のインタビュー映像のなかで、ある雑誌編集者がコンランは「編集王」だと述べていて、その点が実に納得できた。「ゼロイチ(0を1)にするのではなく、1を100にする人」であると。そう、彼が有していたのはプロデューサー的視点であり、なおかつ編集者的視点なのだ。通常、デザイナーは0を1にする職業であるが、彼はそこで勝負したわけではない。しかし1を100にする力は絶大である。Plain, Simple, Usefulは、いまもモダンデザインの定義として揺るぐことがない。

鑑賞日:2024/10/26(土)