前回自分が担当した編集雑記にて言及したニコール・シュミット氏へのインタビュー記事。これをぶじに公開することができました。こちらの取材に関して、ちょっとした取材後記を書いてみます。
集合場所の兵庫県立美術館に行ってすぐ、驚いたことがありました。取材対象者のシュミット氏にご挨拶したところ、「取材対応が苦手で」と恐縮そうに話されました。そして氏の脇からは「手伝いに来ました」と、建築家の長谷川哲也氏がいらしていたのです。シュミット氏と長谷川氏は「hsdesign」名義のユニットとして大阪市内で活動なさっており、グラフィックデザインと空間デザインのお仕事で協働されている関係性です。当初の予定ではシュミット氏個人への取材のつもりでしたから、長谷川氏の登場には少々面食らいました。しかし結果としては良い方向に転びました。記事をhsdesignのお二人へのインタビューというかたちでまとめることができ、内容の点でも充実したものになったと思っています。
そもそもですが、今回の取材は、取材対象者のお二人に展覧会の内覧会をご覧いただいたうえでインタビューを行なうというものです。これは、ただお話を伺うことよりも難しいオファーだったかもしれません。内覧会ののちにインタビューの段になってから、シュミット氏はぽつぽつと零すように言葉を発されていきます。ご覧になったばかりの展示について、ぴったりする表現を探しながらお話ししているようすです。そんな彼女に寄り添う長谷川氏のアシストが印象に残りました。ともに観たものの印象を別のアングルから話したり、過去のシュミット氏の作品を引きあいに出しながら補足するなかで、徐々に話の筋が明確になっていきました。お二人あってこその記事になったといまでは満足しています。このような掛け合いや意図せざる偶然の取り合わせもまた、──石岡瑛子が制作のなかで重視していた──セッション風のものかもしれない。そんなことを考えながら、hsdesignのお二人のお話を伺っていました。
hsdesignのお二人[撮影:artscape編集部]
取材後記は以上です。その他、近頃自分が関わった記事についていくつか周辺情報を加えておきます。まず、9月後半のキュレーターズノートを担当しました。ここでは国立国際美術館の橋本梓氏が、二人の作家について共通点を引き出してお書きになっています。島袋道浩と毛利悠子の近年の活動や作品について、「漏れ」という現象から迫っていきます。単一のモチーフによって異質なものを掛け合わせるようにして書かれた作家論として、わたしはこれを読みました。次回のノートでも作家論的な取り組みがなされるそうなので、いまから楽しみです。
さて、ここで取り上げられている毛利悠子のインスタレーションは、第60回ヴェネチア・ビエンナーレの日本館で展示されているものです。ヴェネチア・ビエンナーレの感想や雰囲気を知れるコンテンツが最近いくつか出ているため、紹介します。「メディアアート(と現代美術)とフェスティバル」と「東浩紀×上田洋子 美術批評から遠く離れて──『観光客』が観た第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ」がそれです。どちらも一種の旅行記的なところに魅力があるトークだったと思います。
じつはヴェネチア・ビエンナーレの美術展ではなく建築展についても、artscapeには記事があります。金沢21世紀美術館の本橋仁氏がお書きになっている「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展指名コンペ、敗戦記──①詐欺メール!?の編」です。タイトルにも現われているように、ドタバタ劇的な雰囲気のあるドキュメントですので、まずは軽い気持ちで記事を開いてみていただければと思います。分載となった本企画ですが、後編は年内に公開予定ですのでお楽しみに。(o)