今年の8月に東京で開催された「dialog() Asian generative Art Exhibition 2024」が10月11日から10日間、台湾におけるメディアアートのハブ的存在のC-LABで巡回展示されていました。4つの都市それぞれの展覧会は、現地のアーティストによってオーガナイズされます。台北展はどのように展開したのでしょうか。現地のアートライター、陳思宇(チェン・スーユー)氏に中文版と日本語版(翻訳=岩切澪)でレポートしていただきます。(artscape編集部)
[Photo by Wild Grass Productions 野草影像]
台湾でのジェネラティブアートとNFT
「dialog() Asian Generative Art Exhibition 2024」展(以下「dialog()」 )は、東京、台北、ソウル、北京を巡回するジェネラティブアートの展覧会だ。「対話」をテーマに、東アジアの各地でジェネラティブアートに取り組むコミュニティをつなぎ、言葉や文化を介した交流を促進し、非西洋的なジェネラティブアートについての議論の方法を探る試みである。台北ではVolume DAO 衆声道(ジョンシェンダオ)というアーティストやキュレーター、コレクターが立ち上げたNFTの普及に携わるグループの主催により、2024年10月11日から20日にかけて、台湾当代文化実験場(C-LAB)にて展示が行なわれた。会場では主に幾何学的な木造の構造上に設置されたモニターやプロジェクションによって、四都市からの計40点以上の作品が代わるがわる放映された。会場には、エアキャップ(緩衝材)で包まれた円柱型の椅子が並べられ、古い建物の冷たさに、柔らかさを与えていた。
「ジェネラティブアート」は、台湾の現代アート界にとっては、馴染みのない存在であると同時に、よく見かける言葉でもある。3年前、NFTマーケットの盛り上がりと共に広く注目を集め、ブロックチェーンのプラットフォームでジェネラティブアート作品を購入する人が続出した。しかしこの2年間でマーケットの熱が次第に冷め、ジェネラティブアートに対する注目度もそれに伴って全体に減退している。とはいえ、まだまだ多くのアーティストが引き続きジェネラティブアートに取り組んでおり、散発的にではあるが、ギャラリーにおいてもジェネラティブアートの展覧会が行なわれている。例えば、昨年末に台北のリアン・ギャラリー(尊彩藝術中心)で行なわれた「郭雪湖とデジタル・ジェネラティブアーティスト──百年越しの風景対話」がある。また、Volume DAOは毎年のように展覧会を主催して一般の人々との対話を試みてきた。2022年には台北市中心部にある複合式アートスペース湿地と共同で「機械はNFTの夢を見るか?」展を、2023年には台北市北投区の鳳甲美術館と共同で「台北ジェネラティブ現場──列島ハッシュ2023」展を行なった。今年の「dialog()」も、近年積極的にテクノロジーアートの普及を推し進めるC-LABと共催しており 、こうした継続的な取り組みによって、台湾の観客のジェネラティブアートについての理解は、より深まっているといえる。
テクノロジーの急激な発展にともない、ジェネラティブアートの制作方法もまた、より多様になってきている。Volume DAOの中心的存在である張寶成(ジャン・バオチェン)によると、数年前には、ジェネラティブアートと言えば、グラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)やコーディングによる作品が主であった。例えば、今回台湾からの参加作品のほとんどが、クリエイティブ・コーディングによる作品であり、韓国からの参加作品の多くが、GUIを用いたものだ。対して、日本からの参加作品は、半々といったところである。また、近年のAIによるアルゴリズムの導入は、新しい技術や議論を生み出している。さらに、新たな技術が応用されることで、アートに携わる人々だけでなく、デザイナーやエンジニアなど、さまざまな分野に関わる人々を惹きつけているという。
[Photo by Pei Li Huang 黃佩麗]
生成する「対話」
今回の展覧会では、日本のアーティスト高尾俊介の作品《Dramatic Yesterday, OK Today》が、視覚的生成物とコードを並べて展示していた。古典的な絵画作品の観賞では、顔料の様子から作画のプロセスを想像することの出来るが、ジェネラティブアートのプログラムは、通常不可視である。しかしこの作品は、我々観客に作品の背後で作用するプログラムの秘密を明かし、さらに視覚と生成技術の一体どちらが作品と言えるのだろうかという疑問を、投げかけてもいた。
高尾俊介《Dramatic Yesterday, OK Today》
台湾のアーティストeziraros(劉乃廷[リウ・ナイティン])による《dying log(音沙汰なし)》は、精緻な生成技術を用いて、台湾に以前あった新聞の求人広告ページをモチーフに、フレームごとに強烈な色彩と細かい文字が並ぶ画面を生成させた後で、新聞がひとつまたひとつと分解し、消えてなくなるという作品だ。昨今の紙媒体の衰退や、求職という行為が新聞を頼ることなく行なわれるようになった社会的現象を反映するとともに、現代のメディアのあり方と私たちの生活との関係における変化を指摘してもいる。
eziraros(劉乃廷)《Dying Log》
王連晟(ワン・リェンチェン)の《Horizon-sea》は、プログラミングとキーワードの設定によって、インターネット上で多くの海の風景写真を集め、設定された自動調整によって水平線が必ず画面中央に来るように生成される。この作品は、世界中のさまざまな人が、これらのキーワードに対してどのような集合的経験や想像を抱くのかを示している。この作品もNFTとして販売しているのだが、王はインターネット上の図像を集めて生成するなかで、イメージの所有者の定義について改めて考えさせられたといい、興味深く感じた。
王連晟《Horizon-sea》[Photo by Wild Grass Productions 野草影像]
陳芷渝(チェン・ヅーユー)の《ReAlms Converging》は、AIによって8,000点の中国山水画のイメージを集め、少しずつ調整することで、モニター上で、伝統的な水墨の線を保ちつつ新たな幾何学的セグメントを生成させていた。作品は水墨画の定義を再構築していただけでなく、その生成のプロセスには、作者とプログラミング言語、AIアルゴリズム間の対話があった。
陳芷渝《ReAlms Converging》
このほか、今回の展覧会では、異なる展示方法によってジェネラティブアート作品と観客の相互作用にどのような影響があるのかについて探究してもいた。よくある液晶モニターやプロジェクターでの展示を基本としつつ、台湾のNFTプラットフォームであるakaSwapの協力のもと、XR(クロスリアリティ)を用いた鑑賞エリアも設置された。このエリアでは観客はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して初めて、そこに設置されたジェネラティブアート作品を鑑賞することができた。
王福瑞《悸動響》
例えば、サウンド・アーティスト王福瑞(ワン・フールィ)の《悸動響》という作品では、HMDを装着した観客が作品が設置された場所に近づくと映像が見え、指定されたエリアに入るとサウンドが聴こえる。対して同じアーティストの《悸動景》は、サウンドの波形を視覚化した棘だらけの立体彫刻で、こちらもHMDを装着した観客が彫刻に近づいて初めて見ることの出来るものだ。しかもこの没入感のある鑑賞体験は、観客に、思わず手を伸ばして触れたくなるような衝動を引き起こしてもいた。
王福瑞《悸動景》
パフォーマンスイベントでのジェネラティブアートの可能性
このほか、会場となったC-LABの敷地内にはFVL DOMEと呼ばれる没入型アート鑑賞のためのドーム型シアターがあるのだが、展覧会ではこの施設もうまく使って、通常は平面で鑑賞する映像を半球体の内部空間にプロジェクションし、ユニークな鑑賞体験をもたらしていた。それから、台湾で長年サウンド・パフォーマンスに取り組んできた組織「失声祭」と共催し、音と映像のイベントを行なった。こういったイベントは、サウンドや映像を用いた舞台芸術の分野におけるジェネラティブアートの応用について、その可能性を明らかにすると同時に、異なる組織と共催することで、新たな観客層を開拓することにも成功していた。
HHによるオーディオビジュアルパフォーマンス、オープニングイベント「AlgoHigh(演算潮)」、C-LAB穹頂劇場(FVL DOME)[Photo by Wild Grass Productions 野草影像]
総合的にみると、東京、台北、ソウル、北京という異なる四つの場所で同じ展覧会が行なわれたとはいえ、台北会場は東京展に比べ、より柔らかな印象を与えるようにデザインされていたといえる。展示方法も、モニターだけでなくドーム空間もあり、またXRのバーチャル体験技術の応用も取り入れていた。それらは、ジェネラティブアート作品の鑑賞方法にバラエティをもたらし、新たな議論を生み出していたといえるだろう。この展覧会における「dialog」は、国を跨いだ作品の交流において発揮されただけでなく、それぞれの土地に固有の状況のもとでの展示のあり方に、具体的に現われていたように思う。
林逸文 Yi Wen LIN 《Disorder》 [Photo by Shih Tung Lo 羅仕東]
(翻訳=岩切澪、校正協力=邱于瑄)
中文版(オリジナルテキスト)
dialog()亞洲生成藝術展2024/dialog() Asian generative Art Exhibition 2024
会期:2024/10/11~2024/10/20
会場:C-LAB Art Space IV 1F、East Lawn(臺北市大安區建國南路一段177號)
公式サイト:https://dialog-asia.com/