会期:2024/10/31~2025/03/16
会場:エスパス ルイ・ヴィトン 東京[東京都]
公式サイト:https://www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/detail

デジタル環境における風景画を模索するウェイド・ガイトンによる個展「Thirteen Paintings」が、エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催されている。同展は、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが所蔵する13点のペインティングシリーズで構成されている。ガイトンは2000年代初頭より、伝統的絵画の形式とインターネット上に流通するイメージを素材として再発見し、複製性の違和感について思考してきた。

「Thirteen Paintings」展会場風景[筆者撮影]

彼の作家としての独自性は、制作と絵画に対する洞察にある。筆を用いず、インクジェットプリンター、フラットベッドスキャナー、キーボード、コンピュータ、iPhoneなどのツールやデバイスを使用する。下塗りされたキャンバス布をプリンターにかけ、図像や文字を多重にコピーすることで文字通りイメージを複写する制作プロセスには、デジタル印刷という20世紀に普及した複製技術によって、絵画の伝統性や文法を踏襲しながらもツールを“誤用”する独自の思考が通底している。ガイトンが複写にあたって選びだすイメージは、アトリエで撮影されたスナップ写真や『ニューヨーク・タイムズ』のウェブサイトのスクリーンショット、制作過程の絵画のドロッピングなどである。2016年のドナルド・トランプ当選を機に公開された『ニューヨーク・タイムズ』ペインティングは、絶えず流通し続ける情報とウェブサイトのワイヤーフレーム──画面上のファサードとも言い換えられる──を共に捉えるように、選択されるモチーフにおいても伝統的な主題が排除され、情報のコードとして可視化される。本展では同じワイヤーにウクライナ戦争の兵士が描かれた。

「Thirteen Paintings」展会場風景[筆者撮影]
 

「Thirteen Paintings」展会場風景[筆者撮影]

同時に、インクジェット技法で荷電制御され塗布されるインクと、同速・同圧でストロークするノズルがキャンバス面と摩擦を引き起こすことで、意図せぬエラーが生じる。インクの垂れやカスレ、ビットマップのズレが物質的に画面上に広がり、絵画と写真、信号と情報、アナログとデジタル、そしてインターフェース間で取り交わされる情報の誤読といったさまざまな対立が生まれる。さらには、誤読を含んだ画面が素材としてデスクトップ上でグリッチされ、解像度や色彩を変えながら再度出力されることで、積層されながら描かれる。そこでは、一貫したデジタルプロセスの精密さや再現性とはかけ離れた、低解像度で弱いイメージからなる掻き傷のような痕跡が残される。

「私の作品は版画であり版画ではなく、写真であり写真ではなく、絵画であり絵画ではなく、この不確かな状態にあることを心地よく感じている。」(展示テキストより)

具象とも抽象とも言い難いデジタル環境における、極めて曖昧なものとなった美的なイメージ。これは、マニファクチュアという観点から絵画に似たオブジェクトを量産することで、絵画の伝統を探求するかのようでもある。また本展では、青木淳によって設計されたギャラリー空間がガイトンによってフレームとして解釈され、絵画を掛ける背景には天井に備わる照明レールとして使用されている白パイプの単管が流用された。結果、展示空間全体のなかで絵画平面の自立性が弱まり、同一スクリーン上に連なる存在の対比はいや増すことにもなる。作家による展示空間への介入という点でもみごとな展示だった。

鑑賞日:2024/11/9(日)