会期:2025/2/2~2025/2/16
会場:YAU STUDIO[東京都]
公式サイト:https://arturbanism.jp/project/gaisyutuken/

有楽町・国際ビル7階のYAU STUDIOで、西澤諭志の個展「1日外出券」が開催された★1。壁には二つ以上の場所で撮った写真を組み合わせた作品、ホワイトボードにマグネット留めした写真、モニターに自由閲覧できるPDFファイル、さらにホルダー式クリアファイル、映像が展示されていた。

西澤は国内のあちこちに仕事で訪れる機会があり、その往来の空き時間に撮影した写真が多く出品されているようだ。本展のタイトルとなった「1日外出券」をテーマに撮影したものではなく、彼の写真の見せ方の提案としてキュレーターとの協働があったと思われる。

西澤諭志の写真を見るのは初めてだ。とくに看板や標語といった、何らかの方法で物理的に設置された文字のある場所の写真をまとめたファイルが気になった。それらは特定の場所で取得できる文字情報をくまなく収集したというよりも、いくつかの場所で撮ったものをひとつのファイルに格納しているようだ。置かれた4冊のファイルには地名のラベリングもない。そのため場所に由来するドキュメント資料というよりも、西澤という作家が目を留めたものの記録といった趣がある。それは西澤の労働のスタイルによって可能になった撮影行為の跡でもあり、特定の場所に関わる情報よりも複数の場所をめぐった個人の存在が浮かんでくる★2


西澤諭志「1日外出券」展のファイル[筆者撮影]

この「何らかの方法で物理的に設置された文字のある場所」を、西澤は「上書きされた土地」と呼ぶ。看板内部の文字だけを写したものも含めて、文字情報ではなく、場所に関わるものを撮っている意識があるのだろう。具体的には、資料館や景勝地にある説明パネルなどが撮られている。

文字情報が書かれたパネルは、場所という指示対象を言語に置き換えたという意味で、当該の場所に対するインデックス性を有する。そして場所と紐づいた文字を物理的に視覚化する行為を「上書き」と呼び、テキストパネルが設置された空間をカメラで切り取ると、上書き行為が行なわれたことを含むインデックス性を有する写真が生成される。上書き行為の立会証拠としての写真を収集したクリアファイルは、上書き行為を行なう人々と場所との結びつきを提示してみせる。その提示のふるまいに、西澤とキュレーターらとの協力関係を見ることができる。

上書き行為は、文言の信頼性にグラデーションがあるほか、たとえば石に直接地名が貼り付けられるといった場合、親切であると同時に景観の邪魔だというような厄介さをはらむ魅力がある。画像化されたパネルテキストはOCR(光学画像認識)を介してalt属性を持ち★3、文字と画像における代替性の定義を検討させてくれるが、発展していくAI技術は場所を介した人々のやり取りに注目してくれるかわからない。人為的な営みに目を向けること、情報ではなく場所と人との関係性に注目すること、そうした視座を持つことで私たちは機械や技術と共生していくように思う。

壁面には、2022年に水戸芸術館現代美術ギャラリーで発表された「クリテリオム98 西澤諭志」のリーフレットに掲載されているものと同じ様式の組写真が展示されていた。クリアファイルの写真は地名のラベリングがないことで上書き行為が抽出されて見える一方で、組写真やPDFファイルには撮影場所がタグ付けのように記載されている。それらもまたカメラが捉えた風景に対する上書きと捉えられるが、壁の組写真における場所の提示は欠くことのできない、あるいは鑑賞を助けるものに思える。そして額装された組写真における取り組みこそ西澤という写真家の要であることは明らかだが、それらについて述べる鑑賞の蓄積が私にはない。今後も彼の写真を見続けるほかない。

本展のタイトルとなった「1日外出券」について、この券は相反する二つのイメージを持つと西澤は指摘する★4。たしかに『賭博破戒録カイジ』と、そのスピンオフである『1日外出録ハンチョウ』に登場する「1日外出券」は、使用者がカイジの場合は切迫した深刻さ、ハンチョウの場合は朗らかさの印象を伴う。本券が有する両極的な性質は額装写真とクリアファイルに相当するという点で、適切さが感じられる展覧会タイトルだった。

鑑賞日:2025/2/12(水)

★1──西澤諭志 個展 「1日外出券」ハンドアウトはウェブからアクセスできる。https://docs.google.com/document/u/0/d/1gdRQCbkPQ0M_ey-oGFJoirCxkRh21ZBuW_XD1nGUIpc/mobilebasic
★2──壁に額装された写真の一部には加工が施されているという。撮影者、あるいは印刷者の存在を示す加工の痕跡は、クリアファイルに格納されたプリントの余白にも見られた。
★3──Optical Character Recognitionは画像上の文字をデジタルテキストに変換するサービス、代替テキストと呼ばれるalt属性は画像の読み込み環境や視覚障害の補助機能として発達してきた。
★4──「1日外出券」作家+企画者振り返り。https://x.com/_areti/status/1891066402217271597