「草月シネマテーク:アンダーグラウンド・シネマ 日本・アメリカ」ポスター、1966
デザイン:細谷 巖、画像提供:慶應義塾大学アート・センター
会期:2025/02/13~2025/06/08
会場:森美術館[東京都]
公式サイト:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamresearch011/index.html
(前編から)
引き続き、展示物を見ていく。「漫画」には赤塚不二夫の『まんがNo.1』(1972-1973)、赤瀬川原平が装画を担当し、石子順造や山根貞男が参加した漫画評論同人誌『漫画主義』(1967-1974)が並んでいる。『漫画主義』6号のポスターは、リスト番号1として会場外の壁面にも展示されていた。「演劇」には状況劇場や天井桟敷のチラシや半券が多く出品されている。「舞踏」は野中ユリによる「性愛恩懲学指南絵図─トマト」の広報デザインが美しい★5。
次の壁に説明文はなく、一面に「演劇」と「映画」のポスターが掲示されていた(リスト112〜137)★6。その隣の最終壁面には1970年から75年までの年表と、「インターメディア」(リスト138〜145)、「アングラの舞台」(リスト146〜157)、「アングラの終焉」(リスト158〜179)の見出しがある。
「インターメディア」は1969年に国立代々木競技場で開催された、万博の前夜祭としての役割を想起させる3日間のイベント「クロス・トーク/インターメディア」を紹介していた★7。「クロス・トーク」は日米の現代音楽を探求するイベントとして1967年に開始され、秋山邦晴や湯浅譲二ら実験工房のメンバーが主体となって実施してきた。そのため会場の説明文でも「アングラ」よりも「前衛」に関わるものと記されているが、そこでの記述において土方巽の出演中止の理由が、本祭が反体制的な祭典でなかったことに起因するように読めるのが気になった。急遽の出演中止は火災による弟子の死によるものではなかったか★8、さらなる調査が進んだのかもしれない。
「アングラの舞台」ではフーテン族が集った新宿という場所に注目し、新宿の商店街組合や大手デパートらが集った新宿PR委員会による1968年の「新宿メディアポリス宣言」や『新宿プレイマップ』を紹介している。そして最後の項目となる「アングラの終焉」では、69年から70年の万博反対運動や安保闘争との連動として「ハンパク」のポスターや『週刊アンポ』が展示されていた。
あらためて展覧会場を見渡すと、西欧美術に親しんだ草月教養クラブの流れが下地にありながら、アメリカからの影響を美術や生活において強く受けた時代の様子が窺える。本展は1966年に金坂健二が草月で企画した「アンダーグラウンド・シネマ 日本・アメリカ」に始まり、76年に出版された金坂の著作『俺たちのアメリカ』で終わる。アングラ文化の仕掛け人であり、毀誉褒貶とも形容された金坂健二の活動が、アメリカのアンダーグラウンド・シネマの紹介や、「フィルム・アンデパンダン」振興への貢献という側面とともに振り返られる時期が来たのかもしれない。『俺たちのアメリカ』が出版されたとき「アングラ」はすでに流行遅れのもので、金坂自身は「フィルム・アート・フェスティバル1969東京」中止への関与も影響し、映像から写真へと活動領域を移していったようだ★9。美術、文化、都市、政治が交わった60年代後半からのおよそ10年間にわたる表現活動を「アングラ」という膜で包み込んでみる。そうしたとき、「アングラ」から洩れ、飛び抜けていく作家たちのその後の活動へも意識が向かうような展覧会だった。
鑑賞日:2025/03/17(月)
★5──出品されていた「トマト」のチケットはないが、土方巽の演目ポスターは慶應義塾大学アート・センターのウェブサイトから見ることができる。http://www.art-c.keio.ac.jp/old-website/archive/hijikata/portas/performance/RCA_TH_EP8.html
★6──出品番号は下記を参照。https://www.mori.art.museum/files/exhibitions/2025/02/10/web_mamr011_worklist.pdf
★7──「クロス・トーク」の演目は、川崎弘二のウェブサイトに掲載されている。https://kojiks.sakura.ne.jp/crosstalk.html 上映の経緯については、遠藤みゆき「評伝・金坂健二」(『東京都写真美術館紀要』No.11、東京都写真美術館、2012)に詳しい。https://topmuseum.jp/contents/images/info/journal/kiyou_11/05.pdf
★8──大辻清司アーカイブ フィルムコレクション6「クロス・トーク/インターメディア」(武蔵野美術大学 美術館・図書館、2022)
★9──遠藤みゆき「評伝・金坂健二」(『東京都写真美術館紀要』No.11、東京都写真美術館、2012)https://topmuseum.jp/contents/images/info/journal/kiyou_11/05.pdf