会期:2025/03/01~2025/03/30
会場:kanzan gallery[東京都]
公式サイト:http://www.kanzan-g.jp/exhibitions/futononami-2025/

kanzan galleryでグループ展「不図の波 2025」が開催された。本展は写真同人誌『寄木塚(よりきつか)』の5号刊行を記念したもので、昨年11月に札幌で開かれた展示の巡回展にあたるという。東京展には、大橋鉄郎、置田貴代美、荻野良樹、小田島文顕、佐藤拓実、佐藤祐治、中村絵美、山田大揮の8名が参加している★1

北海道で活動する写真家の作品が多く展覧されているなか、とくに『寄木塚』の発行者でもある佐藤祐治の「未自然の景観」というシリーズが気になった。黄色い花をつける植物が繁茂する風景写真やアザミなどの植物の写真が並ぶ。それらの植物はもともと、その土地に自生していなかったのだという。北海道は明治政府が押し進める移住促進を受けて入植者を歓迎し、1900年に頒布した「北海道移住手引草」の影響もあって明治中頃に開拓が急進した。「野外博物館 北海道開拓の村」のウェブサイトでは★2、士族団、屯田兵らによる移住経緯のほか「農民の団体移住」という項目で日本各地からの団体移住者を紹介している。道外の農村からやってきた彼らは入植地に出身地の名前をつけ、それらは今でも北海道市町村名のあとに「山形」「福島」「岐阜」「香川」「鳥取」「北広島」といった地名がつくかたちで残され、入植の歴史を伝える。佐藤によるとそのとき植物もまた、入植者によって持ち込まれたという。そして本来は北海道に自生しない外来植物が繁茂する風景を撮影したのが本シリーズにあたる。

というように書くと、まるで「山形」や「福島」の在来種が北海道に持ち込まれたようだが、野生化している植物の原産地はほとんどがアメリカやヨーロッパに由来する。すでに関東以南に持ち込まれていた外来植物が、北海道入植時に持ち込まれたという「移入の移入」の流れが風景となって見えている。そして結局のところオオハンゴンソウやオニアザミといった、現在国内の至るところに茂る繁殖力の高い植物が佐藤の写真を埋めている。


「不図の波 2025」展会場風景[筆者撮影]

珍しくもない野草ばかり写されていることが写真からわかるため、それを手がかりに外来植物というテーマにたどりつく人もいるだろう。私はそれらに対して「ムラサキのアザミ」がせいぜいで、本展をきっかけに「オオハンゴンソウ」という草の名前を知った。これは自分の怠慢だと思う。北海道に本州の地名が託されている地域があることも、その由縁も知らなかった。

北海道出身ではあるが一度郷里を離れてUターンした佐藤は自分自身にも外来性を見るという。人の移動と外来性の併置は排外主義を喚起する危うさがあり、ひいては入植の歴史と外来植物を結びつける意図には疑問が残る。一方で、風景を通して北海道の入植の歴史を見る視点に敬意を表したい。

カメラは瞬間を捉えるメディアである一方で、紙焼きされた写真は100年を超える持続性を保つ。写したものがどれだけの時間を内包し、記録として延命し続けるか。そのように時間に拘泥せざるをえない写真において、佐藤の題材が携える土地の歴史や植生をめぐる時間の遠大さ、枯れては芽吹く循環性とどう対峙していけるか。視界に入れながらも自分ごとにしなかった風景を突きつけられる写真群だった。

鑑賞日:2025/03/14(金)

★1──ウェブサイトに名前のある中山よしこ氏は、東京展には出品していなかった。http://www.kanzan-g.jp/exhibitions/futononami-2025/
★2──https://www.kaitaku.or.jp/about/immigrants/