会期:2025/04/12~2025/07/06
会場:印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.toppan.com/ja/joho/gainfo/graphictrial/2025/
毎回、さまざまな切り口で新たな印刷技術と表現に挑む「GRAPHIC TRIAL」。19回目を迎えた今回、それも範疇に入るのか! という予想外のトライアルがあった。広告業界で活躍するアートディレクター、大貫卓也の「parallax」である。彼が着目したのはレンチキュラーだ。その名前に馴染みはないとしても、昭和世代の読者ならきっと一度は目にしたことのあるアレである。薄い凸レンズで視差を生じさせることにより、写真や絵が瞬間的に動いて見える特殊シートのことだ。おもちゃやカードなど小物の細工に用いられてきたことで知られる。大貫は幼児の頃に大流行した人形「ダッコちゃん」の目がウィンクするのを見て興奮を覚えたことが、レンチキュラーとの出合いだったと振り返る。いわば昭和時代の遺物に言い知れぬ郷愁を駆られるのは、わからないでもない。その思いに突き動かされるように、彼は不向きとされていた大判レンチキュラーに挑んだのである。
小型サイズのレンチキュラーであれば、手を動かすだけで画像の角度をさっと変えられるため、変化や動きの効果が現われやすい。しかし大型サイズのポスターになると、人が移動して視点を変えなければならないため、そこに難しさがあった。重ねる画像の枚数や大判の幅、レンズの角度などを検証し、最終的に白地に黒いモノのシルエットを映し出したポスターを中心に完成させた。この大判レンチキュラーは、実際に自分が前を歩きながら見るという体験をしてこその感動があった。まさに短い映像のようなポスターに仕上がっていたのだ。今の言葉でいえば、“エモい”とはこのこと。それはデジタルサイネージにはない、大貫曰く「アナログなポテンシャル」なのだろう。
展示風景 印刷博物館P&Pギャラリー
もうひとつ、アナログな物質としての魅力を引き出していたのが、アートディレクター・妹尾琢史の「透き通る“和”の情景─FINDING JAPAN」である。透き通る素材としてアクリル板を活用し、そこに和紙を封じ込める方法に挑んでいた。アクリル板の表面と裏面、和紙と各層にわたって印刷を施したり、アクリル板を何層にも積層したり厚みを変えたりといったトライアルを経て、日本の四季の風景を独特の質感で表現した。実は、私はかつてアクリル板やガラス板に西陣織の端切れを封じ込めるというプロダクト開発に携わったことがあり、それをチラリと思い出した。手の加え方で、日本の伝統的な素材もまったく新しいものに生まれ変わることができる。デジタル時代においても「アナログなポテンシャル」はまだ尽きないと感じられた展覧会だった。
展示風景 印刷博物館P&Pギャラリー
鑑賞日:2025/04/19(土)