会期:2025/05/25~2025/05/27
会場:TEN10 Creative Base[東京都]
公式サイト:https://www.instagram.com/p/DKBkcXIxePu/
ウィーンを拠点とするデザインユニット・WIENER TIMES(Susanne Schneider、Johannes Schweiger)は、テキスタイルの文化史を横断的にリサーチしながら制作を行なっている。2023年にオーストリアの老舗メーカーのバックハウゼンが事業停止に至ったことを契機に、彼らは同社のアーカイブ生地の収集を始めた。時代や文脈、糸、組織構造が異なるテキスタイルを組み合わせ、新たな造形物へと再構成する。
今回のインスタレーション形式の展示「DEZAIN – SENSHOKU RAIFU」では、ウィーン工房のテキスタイルデザイナー・上野リチによる図案を出発点に、新旧のテキスタイルが縫い合わされたWIENER TIMESの新作コレクションが発表された。
フェリーチェ・リックス・ウエノ「DEZAIN – SENSHOKU RAIFU」展会場風景[筆者撮影]
フェリーツェ・リックス=上野リチ(1893–1967)は、20世紀初頭のウィーン分離派やウィーン工房の潮流──すなわち、芸術と生活の統合を理念とする装飾芸術運動──において、装飾美と生活様式を結ぶテキスタイルの可能性を探求した作家である。ヨーゼフ・ホフマンに師事した彼女のデザインは、幾何学的な構成と反復を基盤に、花や果実、貝殻など身近な自然のモチーフを鮮やかな色彩と優美な曲線で構成し、ウィーン工房のなかでも特異な装飾性を示した。
1925年に建築家・上野伊三郎と結婚して以降の上野はウィーンと京都を往復しつつ、素材の点でもテキスタイルのみならず陶器、ガラス、教育へと活動を広げた。その実践は東西の装飾原理を往還し翻訳するものであり、クラフトとモダンデザイン、日本の伝統文様を交差させる存在として再評価されている。
WIENER TIMESによる本展の作品群では、上野の図案に加え、ウィリアム・モリスやリバティ、ラフ・シモンズによるKvadratなど異なる来歴の布地が縫合され、ひとつのオブジェクトへと再編成されている。上野が追求した装飾の構成原理は、単なる引用にとどまらず、抽象と機能のあいだを探求するWIENER TIMESの意匠となり、現代的なクラフト実践へと生まれ変わることとなった。WIENER TIMESがクッションとして提示する形態は、家具としての実用性とソフトスカルプチャーとしての彫刻的側面を併せ持ち、彫塑的な装飾性を形と素材の両面から探求している。
フェリーチェ・リックス・ウエノ「DEZAIN – SENSHOKU RAIFU」展会場風景[筆者撮影]
また、本展には2024年にオーストリア応用美術博物館(MAK)で開催された企画展「PECHE POP: Tracing Dagobert Peche in the 21st Century」の際にWIENER TIMESが制作した、バックハウゼンのテキスタイルを使用したカーテンも出品された。1915年からウィーン工房に参画したダゴベルト・ペッヒェ(Dagobert Peche)を紹介する同展に合わせて、ペッヒェが得意とする舞台的な装飾理念を反映した本作もまた、クッション作品と同様に異なる文化に接続する入口として機能している。
執筆日:2025/05/26(月)