
会期:2025/06/20~2025/06/21
会場:ロームシアター京都 ノースホール[京都府]
公式サイト:https://rohmtheatrekyoto.jp/event/133630/
前編で予告したように、本作の焦点は、移民・難民問題とジェンダーを
[撮影:坂内太]
だが、家父長制の支配下で女性に人権や自己決定権がない状況は、「海の向こうの国」だけだろうか? 本作のキーワードが、在留資格と婚姻という2つの法制度が絡む「婚姻ビザ」である。増加する移民・難民への排斥や入国管理局の規制が強まるなか、近いうちに自分が入管収容施設に収容されることを予測したユウスケは、娘のアカリの先行きを心配する「親心」から、日本人の拓也に、アカリと結婚してくれと頼む。婚姻ビザがあれば、収容を免れるからだ。だがここには、「女性自身の意思はまったく不在のまま、父親が結婚相手を決める」という「海の向こうの国」と同じ構造が反復されている。そして皮肉にも、婚姻ビザで「救済」されるのはユウスケ自身だ。
ユウスケの「親心」とは裏腹に、アカリは、マキに渡された本の思想と、ミステリアスなオーラが漂うマキ自身にも惹かれていく。アカリはマキをイオンモールへ誘い、ボーリングで遊んだ後、プリクラで記念撮影する。観光地の顔出しパネルのように切り替わる「プリクラの背景」の中からアカリが選ぶのは、タキシードの新郎とウェディングドレスの新婦が並ぶ「結婚式のテンプレ」だ。ノリノリでタキシードの新郎側を選ぶアカリと、(おそらくプリクラ自体が初めてで)流されつつもウェディングドレスの花嫁に顔をはめるマキ(これは2人の最初で最後のデートだが、「ボーリングのピン」を模した衣装を着た俳優たちがおどけて演じるなど、多くの観客が感じるであろう「気まずさ」を吹き飛ばそうとするように、ギャグが大量投下される演出には疑問や違和感が残った)。
[撮影:坂内太]
距離を縮めていくアカリとマキだが、ユウスケの姉のカナエは、ゲリラ戦線のリーダーの解放思想がアカリに与えた影響を危険視し、マキに出ていくよう告げる。拓也もまた、アカリに対し「洗脳されている」「俺の知ってるアカリじゃない」と反発するが、アカリは「洗脳からの解放」「これが本当の私」と返す。マキは、ゲリラ戦線に戻ることをアカリに告げ、「一緒に海の向こうへ行こう」と言うアカリに対し、「あんたはあんたの戦い方をして」と言い残して去っていく。激しい爆発音と、落下するトタン屋根。
崩壊を暗示する暗転が明けると、そこは「10年後」の現在だ。ニュース音声が、政府軍が最大規模の空爆を行ない、ゲリラ組織が壊滅したことを報じる。そして、冒頭のシーンに
[撮影:坂内太]
このように、シスターフッドとして描かれるアカリとマキの関係は、「世代間の戦い方の差異」の物語でもあり、連帯を超えた恋愛感情としても多重的に描かれる。ゲリラ戦線に戻り、物理的な闘争で世界を変えようとするマキ(旧世代)と、弁護士すなわち法の世界で非暴力的な手段で戦うことを選ぶアカリ(若い世代)。さらに本作では、「違う世界・手段で戦うことを選んだ2人の離別」が、恋愛感情とも重ねられることで、「永遠に引き裂かれる結末の悲愴さ」がより際立つ。
だがここには、留意がいくつも必要だろう。アカリとマキが記念写真を撮るプリクラの背景が「結婚式」である演出はわかりやすいが、「典型的な男女カップル」のテンプレしか用意されていないことにアカリ自身がまったく違和感を抱いていないことに対して、
そして、2つの「記念写真」と、それが示唆する「家族」というテーマも検討したい。1つめは、アカリとマキが撮った「結婚式」のプリクラ写真。2つめが、ラストシーンで、ユウスケを囲み、2つの家族が並んで撮る「記念写真」だ。だがそこには、マキの姿はない。移民・難民政策はリベラルに転換した「10年後の日本」だが、同性婚が認められているのかどうかはまったく言及されない。さらに言えば、同性婚に対しても婚姻ビザが下りているのだろうか? そうした想像力は、残念ながら本作にはない。休憩所を覆う「トタン屋根」は、「同じ一つの屋根の下」という「共存」の象徴である一方で、婚姻という法制度によって女性の性と生殖を管理する家父長制支配の象徴でもある。作中では、終盤、轟音とともに落下するトタン屋根だが、はたして「10年後の日本」では、家父長制社会や異性愛を前提とした婚姻制度も「崩壊」したのだろうか?
[撮影:坂内太]
そして、本作の最大の問題点は、セクシュアル・マイノリティの登場人物を軸にしつつ、現実に立ちはだかるヘイトや差別、社会制度については透明化し、「霊になって再会を果たす、強く結ばれた美しい絆」として描く点にある。「セクシュアル・マイノリティには、死や別離という悲劇的結末しかない」という紋切り型の
鑑賞日:2025/06/21(土)
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