
会期:2025/07/12~2025/08/31
会場:SOMPO美術館[東京都]
公式サイト:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/taisho-imagerie/
イマジュリィとはあまり聞きなれない言葉であるが、これはフランス語で、ある時代やジャンルに特徴的なイメージ群のことを指すそうだ。印刷技術の革新により、大正時代に興隆した雑誌や絵葉書、ポスター、写真などの大衆的複製物は「大正イマジュリィ」と総称されている。大正デモクラシーといわれるように、大正時代は日本でも庶民の間で民主主義的な思想や運動が活発になった時期である。また与謝野晶子の『みだれ髪』に代表されるように、すでに明治後半からロマンティックな恋愛観も芽生えていた。そうした転換期を生きる人々の感性や感情が印刷物にも反映されたのだ。日本にまだデザインやイラストレーションという言葉が登場しておらず、いわば日本のグラフィックデザインの黎明期ともいえる。
本展では、この時代に活躍した藤島武二、杉浦非水、竹久夢二ら12名の画家や図案家の作品を紹介している。いずれも西洋の芸術やアール・ヌーヴォー、アール・デコといった流行の様式に触発されたり、それらを吸収したりして、独自の作風を築いていったことが共通点として挙げられる。そうなると、日本の浮世絵や工芸品などが西洋に渡ってジャポニスムの流行が起こり、アール・ヌーヴォー様式が花開き、さらにそれが日本へと戻って大正イマジュリィに帰結したということになる。洋の東西の融合が西洋で起こり、また日本でも起こっていたという美術史の大きな循環が非常に興味深く思えたのだった。
杉浦非水・装幀/菊池幽芳・著 『お夏文代』(1915、春陽堂)個人蔵

竹久夢二・表紙絵 『汝が碧き眼を開け』(セノオ楽譜第56番)(1917年初版/1927年7版)個人蔵
当然ながらコンピューターもまだない時代、彼らは手描きでさまざまな図案に挑んだわけで、それゆえの独特の味わいはもちろんのこと、型にはまらない自由さや伸びやかさを全体に感じ取ることができた。とはいえ西洋のアール・ヌーヴォーとは趣向が異なる。あくまで日本の文化の上に築かれた、東西の融合の過程というべきか。日本の民主主義社会の、またグラフィックデザイン史の出発点として、大正イマジュリィは非常に希少な資料性を帯びている。

小林かいち 絵葉書セット『灰色のカーテン』より(1925-1926頃、さくら井屋[京都])個人蔵

AZU・表紙絵『カジノフオーリーレヴユー舞踏団 第42回公演』(1929-1933、浅草水族館)個人蔵
鑑賞日:2025/07/12(土)