公式サイト:https://www.kobe-sankita.jp/

神戸・三宮駅前の結節点に位置し、少し前まで「さんきたアモーレ広場」と呼ばれていた場所は、2021年に竣工した再整備計画によって彫刻的な造形を備えた公共空間「サンキタ広場」として生まれ変わった。設計を手がけた津川恵理は、駅前という通過点に思い思いの滞在を立ち上げる場をつくり出し、この街の風景に新しい居場所をもたらしている。建築があらかじめ機能を与えるのではなく、人びとのふるまいが意味を生み出すようであった。

六甲山地から海へと続く都市の斜面に位置するこの広場は、地形特有のわずかな勾配を取り込みながら設計され、傾斜が人々の姿勢や移動を自然に引き出す。楕円形の円盤を基本とする構造群は、ベンチや遊具のように用途を定めることなく、人が寄りかかり、腰掛け、登り、寝転がることで初めて機能を得る。実際に体感してみると、構造体のわずかな高さや角度の違いが、人々の動作と身振りを自然に引き出していることに気づく。アルミ合金の冷たく均質な表面と、RC造がもたらす重量感のある硬質さ──公共彫刻にしばしば用いられる硬質なブロンズや石とは異なる肌理が、直接触れることで身体に伝わり、休憩所や遊び場に、あるいは仕事場やスケートパークへと瞬時に姿を変える。そうした多様なふるまいが堆積されている風景はまずもって印象的だった。

[筆者撮影]

広場の一角には、神戸出身の彫刻家・新谷琇紀による《AMORE》(2006)が据えられている。半身の裸婦像が反復しながら垂直に伸び上がる造形は、阪神淡路大震災で犠牲になった人々を悼むために制作されたものであり、そのフォルムはブランクーシの《無限柱》を想起させる。ルーマニアの戦士兵を弔うブランクーシの柱がそうであったように、反復と上昇のモチーフが象徴するのは無限の鎮魂である。津川の円盤状の構造体は、このモニュメントと呼応するように配され、一体となって震災の記憶と日常のふるまいが交差する場を生み出している。

再開発によって均質化されやすい駅前において、「サンキタ広場」はあえて機能を定めない造形を導入することで、弔いと生活のスケールを共存させながら、利用者の行為によって絶えず更新され続ける風景になる。都市に累積する時間と人々の活動を重層化する、パフォーマティブな公共空間のひとつの試みといえるだろう。

執筆日:2025/08/15(金)