
会期:2025/08/30~2025/11/03
会場:泉屋博古館東京[東京都]
公式サイト:https://sen-oku.or.jp/program/t_20250830_meissen2025tokyo/
日本の磁器発祥地である佐賀県有田町には「ツヴィンガー宮殿」があり、私も何度か訪れたことがある。もちろんこれは模倣の建物で、「有田ポーセリンパーク」という施設のなかでかなり異彩を放つ形で佇んでいる。ザクセン選帝侯のフリードリッヒ・アウグスト1世(アウグスト強王)によって、18世紀に建造された本物のツヴィンガー宮殿(現在のドイツ・ザクセン州ドレスデン)には、膨大な量の東洋磁器が保管されていたといわれる。ヨーロッパ屈指の東洋磁器コレクターだったアウグスト強王は、ヨーロッパで初めて磁器焼成を成功させた立役者だ。当時、若き錬金術師に命じて研究を行なわせ、約5年の歳月をかけて1709年に磁器焼成法を解明。翌年、近郊のマイセンに王立磁器製作所を創業させたことが、ヨーロッパで独自の磁器文化を開花させるきっかけとなった。つまりツヴィンガー宮殿は、ドイツの名窯マイセンと有田焼産地との歴史的な深い結び付きを象徴しているというわけである。本展ではその点に触れつつ、現代にも受け継がれるマイセンの精緻な色絵磁器の魅力を紹介していた。
展示風景 泉屋博古館東京[筆者撮影]
まずプロローグで登場するのは、アウグスト強王のコレクションのなかでも「マイセンの原点」といえる江戸中期に製作された柿右衛門様式の作品と、その写しである。これまで写真資料で見たことはあっても、本物を見る機会はなく、大変貴重な展示であった。じっくり観察すると、柿右衛門様式の上絵を忠実に写している一方、マイセン独自のセンスを発揮している部分もあり、西洋における和洋折衷が垣間見られた。例えば皿の縁取りとして対照的に模様が描かれた部分は、西洋食器らしい様式だろう。憧れの東洋磁器の写しから始めながらも、守破離の精神で、西洋磁器の世界へと発展させていったことが想像できた。
《色絵龍虎図輪花皿》肥前・有田窯 江戸時代中期(17世紀-18世紀)愛知県陶磁美術館蔵
《梅樹竹虎図大皿》マイセン(18世紀)愛知県陶磁美術館蔵
本展では現代マイセンを代表するデザイナー、ハインツ・ヴェルナーの色絵磁器が主に展示されていたのだが、それでも柿右衛門様式のDNAがわずかに感じられたのは私だけだろうか。余白をたっぷりと生かした非対称の構図や、染付の濃みの筆遣いなどに現われていたのである。また戦後、マイセンが東ドイツに属していたという歴史も興味深い。つまり資本主義社会の市場競争にさらされることがなかったため、手間やコストの掛かる精緻な絵付け作業が守られてきたのではないかと思うのだ。そうした歴史のさまざまな綾をマイセンの色絵磁器からは感じられたのだった。
《アラビアンナイト》コーヒーサービス マイセン(1967頃~)個人蔵 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー
鑑賞日:2025/09/27(土)