会期:2025/07/19~2025/09/20
会場:gallery αM[東京都]
公式サイト:https://gallery-alpham.com/exhibition/project_2025-2026/vol2/

gallery αMにおいて「河口龍夫、今井祝雄、植松奎二|1970年代」が開催された。本展は芦屋市立美術博物館・学芸員の大槻晃実をゲストキュレーターとする全8回の展示の第二弾にあたる。70年代の京都アンデパンダンに参加し、共同制作の経験がある3名の作家に焦点を当てている。

2015年、1972年に京都市美術館で開かれた展覧会を検証する「Re: play 1972/2015―『映像表現 ’72』展、再演」展が東京国立近代美術館で開催されたように、70年代の関西における美術と映像の関わりは美術史の流れにおいても重要なシーンのひとつとされている。また共同制作という点でも70年代はグループでの作家活動が注目され、1973年には「集団による美術」を副題とする京都ビエンナーレが開催されている★1。そうした背景に基づく本展は、河口、今井、植松が関わった共同制作による作品を取り上げながら、1作家につき2点と出品数を絞り、彼らの作品を丁寧に紹介している。


「河口龍夫、今井祝雄、植松奎二|1970年代」展会場風景[筆者撮影]

今回とくに気になった、NHK神戸で放送された《映像の映像──見ること》(1973)について述べたい★2。河口、植松、村岡三郎の3者による本作は、美術と映像の関わりにおいてテレビというメディアを扱った点に特徴がある。

本作は美術家による映像作品に関心を持ったNHKのディレクターが河口へ連絡したことから始まったという★3。植松が1971年に制作した映像作品『圧・態──構造の関係性』を踏襲するような章立ての構成で、テレビを見続けることが困難になる六つの方法が示される。その方法とは、テレビ画面を絵の具で塗りつぶす、テレビを砂で埋める、テレビが映っている鏡を割る、テレビを海に捨てる、テレビの画面をガムテープで覆う、テレビをハンマーで破壊する、というもので、いずれも物質としてのブラウン管テレビに焦点が当てられている。テレビという映像受像機を見る行為が、光線情報によるイメージを感受することと物質的なガラスの表面を眺めることといった、切り分けできない認知のはざまにあることを示唆するような作品である。

また隠されたり、割られたりするテレビ画面には作品制作時に受信したテレビ番組がそのまま流されている点も重要である。1970年代初頭には普及したとまでは言えないものの、家庭用テレビもモニター装置としての役割を担えるようになっていたが、作品内のテレビ画面に映る映像は作家たちが制作したものではなく、河川などについてのNHKの番組である。これにより視聴者が見慣れている映像を映すテレビ機器を対象化し、視聴者それぞれの自宅にあるテレビをメディウム化させることに成功している★4。そして人々の家のテレビそのものを作品化し、家庭内に踏み込んだ代償として、膨大なクレームとNHK神戸の担当者2名が左遷を受ける顛末を迎えている。


「河口龍夫、今井祝雄、植松奎二|1970年代」展にて[筆者撮影]

本展は再制作や複製による出品物によって構成され、それらが70年代の発表空間である「場」や「時間」から切り離されても観念として自立できる強度を持つことを示すという。実際、彼らの作品は関係、構造、異和といった概念を扱うためか古びる気配がまるでない。一方で本来はカラーで放送され★5、家にいながら唐突に作品鑑賞が始まるというハプニングとしての視聴体験への興味も尽きない。展覧会に関連して開催されたトークイベントでは彼ら自身による時代の振り返りが行なわれ、その記録はYouTubeで公開されている★6。本展のプロジェクト名である「立ち止まり振り返る、そして前を向く」が実践され、映像と美術のあり方を探る機会を与えてくれていた。

鑑賞日:2025/08/28(木)

★1──1973年京都ビエンナーレ「集団による美術」は、「THE PLAY」といった流動的な共同体を特徴とするグループも招聘されている一方で、合同展示のメンバーから再編成した「Equivalent Cinema」や「知ってる人+知ってる人+知ってる人」など、企画に合わせた一時的な集団化も見られる。
★2──放送時の番組名は『兵庫の話題』内の「映像への試み」で、12月6日(木)の昼と夕方に2回放送されたようだ。
★3──下記のトークイベントによる植松の発言を参照。
★4──共作者の1人である河口龍夫は、観客が画廊などの特定の場所に行くのでなく、映像の方が家にやってくる反転的な構造を意図したと述べている。参照=『初期ビデオアート再考』初期ビデオアート再考実行委員会、2006、34頁
★5──本作はカラーで放送されたが、マスターの紛失により、白黒の映像しか残っていない。1973年はカラーテレビの普及率がモノクロテレビを上回る境目の時期にあたり、放送時はカラーとモノクロの両方の鑑賞者がいたと思われる。
★6──「『vol. 2 河口龍夫、今井祝雄、植松奎二|1970年代『あの70年代、関西』』大槻晃実×今井祝雄×植松奎二 20250719」、galleryalphaM、2025/09/11、URL=https://www.youtube.com/watch?v=lhJJQLPFMSI&t=2040s
「『vol. 2 河口龍夫、今井祝雄、植松奎二|1970年代『60年代のグループ〈位〉と70年代の自作を語る』』河口龍夫×大槻晃実 20250830」、galleryalphaM、2025/09/11、URL=https://www.youtube.com/watch?v=zQ5PjDGKEvU&t=40s