会期:2025/09/30~2025/10/11
会場:和光大学付属梅根記念図書・情報館 梅根記念室[東京都]
公式サイト:https://www.wako.ac.jp/news/2025/08/9301011.html

和光大学付属梅根記念図書・情報館にて、1970年に開催された大阪万博に関する資料展示「前衞芸術と宗教からみた万博と反万博」が開催された。本展の特徴は昨今の万博再考の本流からややそれて、宗教関連パビリオンと反万博の動向に注目した点にある。

1851年にロンドンで始まった万国博覧会は世界各国の産業や文化を供覧するという性格上、宗教に関わる展示物も紹介され続けてきた。1970年の大阪万博では仏教に関連して七重塔や観音像が造られたほか、キリスト教やモルモン教のパビリオンが建設されている。しかしキリスト教館においては、繁栄を誇示する万博の気質が宗教理念にそぐわないとする反対派が生じ、さらに反万博・反戦派の東京神学大学全学共闘会議の学生たちも加わって内紛が激化、万博終了後に行なわれた総会では機動隊を巻き込む騒動を起こしている。

一方、パビリオンを布教の場と捉えたモルモン教は、現地で積極的な勧誘活動を行なうなどしたたかさを見せる。本展覧会場では実際に宗教パビリオンで頒布されていたパンフレットのほか、2025年万博の特徴としてキャラクターの活用を挙げ、カトリック協会のマスコット「ルーチェ」やEUの「エウロパ」などを紹介していた。


「前衞芸術と宗教からみた万博と反万博」会場内資料[筆者撮影]

反万博に関連する資料展示としては、機関誌や逐次刊行物が多く紹介されていた。新聞の体裁を取り、加速度的な経済成長を促す社会構造を批判した「DOMMUNICATION(ドミュニケーション)」は美大出身のメンバーを基盤とする革命的デザイナー同盟が関わり、新聞メディアとグラフィックデザインという結びつきにおいて新規性を見せたという。同紙の6号には櫻画報から赤瀬川原平、松田哲夫も参加している。

本展のテキストパネルでは風景論を筆頭とする新たなメディア論が1970年代に活発化した背景に、万博の開催地である大阪への移動手段として使われた国鉄の存在があると指摘している。国鉄と電通は万博によって生じた、団体旅行でなく個人旅行という移動スタイルを定型化させるべく、ポスター、雑誌、テレビというメディアを通して「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを実施する。そうした大資本が用いたメディアの力に対抗するための論説が引き起こされる直前、反万博派も自分たちが扱うメディアの活路を探っている。会場には冊子『あんぐらああと』、『叛』、『季刊KEN』、『デザイン批評』、『告発』、ビラ「万博粉砕宣言」の再録コピー、「プレ反博」などの複製ポスターが掲示されていた。それらの新聞、雑誌、ビラ、ポスター、そしてイベントの創出は、オルタナティブなメディアの形態としても捉えることができるだろう。


「前衞芸術と宗教からみた万博と反万博」会場風景[筆者撮影]

『季刊KEN』は写真家の東松照明の出版社・写研が刊行したもので、木村恒久、澁澤龍彦、多木浩二、大島渚、針生一郎らが寄稿し、万博に疑義を唱えている。またゼロ次元の加藤好弘と岩田信市、告陰の末永蒼生は、映画分野の金坂健二、佐藤重臣らと万博破壊共闘派を結成し、「万博粉砕ブラック・フェスティバル」(1969年6月8日〜12日)を開催している。こうした反万博派の名前が示す専門領域の多様さは、そのまま万博参加作家の豊かさの裏返しでもある。

2025年万博も大阪での開催となったが、1970年万博との比較の難しさばかりを感じる。本展は1970年万博を同時代における外側から顧みることで、戦後美術とメディア批評の足取りをたどらせてくれる小展示だった。

★──2025年万博は日本で開かれる6回目の万博にあたる。

鑑賞日:2025/10/02(木)