
会期:2025/09/27~2026/01/18(日時指定予約制)
会場:東京都庭園美術館[東京都]
公式サイト:https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/
キラキラ、キラキラと、とにかく輝いていた。照明が落とされた薄暗い展示室だったため、余計にそのように映ったのかもしれない。展示品一つひとつが幻想的で、吸い込まれるように息を殺して見つめた。そもそも私自身ハイジュエリーに縁があるわけではないので、デザインの良し悪しはあまりわからないが、確かにヴァン クリーフ&アーペルは貴金属や貴石の生かし方が卓越しているように感じた。複雑な幾何学的造形もあれば、バラなど植物をモチーフにした具象的造形もあるなかで、都度、それらのピースにふさわしい色みの貴金属や貴石が選ばれ、緻密にカットされているように見えるのだ。白であればプラチナ、赤であればルビー、青であればサファイア、緑であればエメラルドというように。ハイジュエリーとはこれほど贅沢に複数の貴金属や貴石が盛り込まれているものなのかと感心しつつ、貴石をじっくり眺める機会もあまりないため、本展ですっかり眼福にあずかることができた。

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット(1924)プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション[© Van Cleef & Arpels]
ヴァン クリーフ&アーペルはそうした詩情あふれる世界観を持つ一方、実は機能性を徹底的に追求した一面もある。例えば女性の外出時の持ち物をひとつにまとめた「ミノディエール」というケース。なかでも《カメリア ミノディエール》(1938)はそれ自体が美しいゴールドでできていて、装飾物のカメリア(椿)を取り外してブローチとして着用できるうえ、内部には時計付きリップスティックホルダーやパウダーコンパクト、ライター、ノート&ペンなどがシステマチックに収められているものである。ケースはバッグに忍ばせたり、クラッチとして持ったりできる。

カメリア ミノディエール(1938)イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ルビー
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション[© Van Cleef & Arpels]
また、服飾に用いられるジッパーから着想を得たという「ジップ ネックレス」も意表を突いた作品だ。一見、華麗なネックレスであるが、トップに付いたタッセルをスライドさせてジッパーの要領で閉じると、半分の長さになり、輪にして留めるとブレスレットに変容する仕様なのである。しかもジッパーのエレメント(務歯)でさえ、幾何学的造形の一部として生かされ、ハイジュエリーとしての気品を失っていないのだ。いずれもヴァン クリーフ&アーペルが特許を取得した独自技術で、ただ単に貴金属や貴石の輝きだけに頼った作品作りをしているわけではないことを物語る。時代を先取りする企画力やデザイン性、誇り高い職人魂も、作品群から垣間見ることができた。

シャンティイ ジップ ネックレス(1952)イエローゴールド、プラチナ、ダイヤモンド
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション[© Van Cleef & Arpels]
鑑賞日:2025/11/01(土)