会期:2025/09/12〜2025/09/24
会場:新宿眼科画廊[東京都]
公式サイト:https://note.com/1zumk/n/n67d28a2a8a0c

「見る場所を見る5──イラストで見る、鳥取の映画館&レンタルビデオショップ史」はタイトルにあるように、鳥取の映画館とレンタルビデオショップについてのリサーチを展示するものであり、2022年に1回目を開催して以来、これまで回を重ねてきた。5回目となる今回は、5年間の活動の集大成として今までに描かれてきた作品を展示し、それと併せて最新のリサーチ成果を発表する機会となっていた。

このプロジェクトをオーガナイズしているのは映像作家の佐々木友輔だ。彼は2016年に数多くの映画館が存在する東京を離れ、大学に勤務するため鳥取県へ移住することになった。当時すでに県内には3館しか映画館がなく、佐々木はスクリーンを求め県内の自主上映グループなどを取材した3部作のドキュメンタリー映画『映画愛の現在』(2020)を制作した。その延長線上で取り組まれているのが、この「見る場所を見る──鳥取の映画文化リサーチプロジェクト」であり、佐々木とともに杵島和泉(映画館・映画観客研究)、Clara(イラストレーター)が中心メンバーとなり進められてきた。

「見る場所を見る5──イラストで見る、鳥取の映画館&レンタルビデオショップ史」会場風景[筆者撮影]

映画はどんな場所で、どのように体験されてきたのか。すでに営業を終了してしまった映画館が多い鳥取においてこのテーマを追求するために、プロジェクトのメンバーたちは関係者の取材に加え、ポスターやチラシなどの宣伝物や新聞、地元メディアの報道といった「ノンフィルム資料」を頼りに調査、分析を行なっている。その成果は同展に合わせて出版された書籍『「見る場所」のメディア考古学──鳥取から日本映画史を描き重ねる』(小取舎、2025)において余すところなくまとめられている通りなのだが、このリサーチの展開には「イラストレーション・ドキュメンタリー」という方法論と、それを踏まえ制作されたClaraによる作品が大きく関わっている。

イラストレーション・ドキュメンタリーとは、このプロジェクトのために作られた新しい方法論で、写真などの資料を踏まえて、過去に存在した建築や出来事を再現した平面作品が制作されている。鳥取で活動するイラストレーターのClaraによって描かれた絵の数々は、在りし日の映画館の外観や、人々が映画をどう受容していたのかを表象している。

佐々木と杵島によれば、こうしたアプローチは、インタビューなどの音声から記録性や事実性を担保しつつ匿名性にも配慮するアニメーション・ドキュメンタリーや、ロラン・バルトの『明るい部屋』から着想を得ている。佐々木と杵島は『明るい部屋』を、「『不在』を通じて思考や記憶を引き出し、読者や観客の想像力を活性化させる試み★1」と捉え、そうしたドキュメントの展示を通じて、「さらなる資料提供」を目指している。つまりイラストレーション・ドキュメンタリーにおける「イラストレーション」とは、複製図版一般としてのイラストレーションではなく、その記録性(ドキュメンタリー性)を基礎とする視覚言語としての意味がそこに込められているのだ。

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★1──佐々木友輔、杵島和泉「イラストレーション・ドキュメンタリー──地方映画史を記述するための方法論」『「見る場所」のメディア考古学──鳥取から日本映画史を描き重ねる』小取舎、2025、61頁。

鑑賞日:2025/09/19(金)