会期:2025/12/17〜2026/02/07
※Aokidのワークショップ「何か作りたかった、なりたかった私、が、東京を作ってきたんだった。」は2026年1月23日、25日、31日に実施予定。
会場:BUG[東京都]
参加アーティスト:Aokid、芦川瑞季、KANOKO TAKAYA、坂本森海、タツルハタヤマ、八木恵梨、𠮷田勝信
キュレーター:池田佳穂
公式サイト:https://bug.art/exhibition/bugschool-2025/

会場の様子。向かって左側の壁面、L字につながる金属フレームがAokidの展示スペース。写真右上に吊られているブルーシートも作品の一部。また、写真に写っていないカフェスペース上部にも作品が展示されている[撮影:山本康平]

誰であれ、その身体はその人のものだ。その身体が経験し、稽古してきた動作は、その人からしか現われない。だが、Aokidの声と身振りを追いかけるように動いていくと、私はこのような動作を何度もAokidがしているのを見たことがあると思いながら、そのような動作を自分がしていることに気づいた。それは少し嬉しくなるような経験だった。

ワークショップで輪になる。ゆっくりと身体を屈める、手を伸ばす、伸ばした手先で指が順に開かれフレミングの左手の法則の左手のようになり、それをねじる、向かいの人に向ける、「アンジャイダーー」★1と声を出して顔が勝手に歪む……。惜しみなく、AokidはAokidらしい動作を行なう仕組みを(言葉は最小限に)私たち参加者に伝えていく。集まった9名で、BUGの展示スペースの手前で動き回る。ぶつからず、しかし互いの身体の大きさを感知しながら、自分の身体の大きさも伝えていく。私の動きは誰かの動きに作用し、逆もまたしかりであり。

Aokidはダンスを中心としながら、ドローイング、ドローイングを元にした立体、それらを複合した映像、そうした映像を組み込んだパフォーマンスを発表してきた。ソロやコラボレーションを問わず、精力的にパフォーマンスを発表、出演してきたAokidは、さまざまな規模の展覧会や芸術祭にも参加する。また、コレクティブな活動として「Whenever Wherever Festival」を企画・運営し、代々木公園で集まった参加者と次々と発表を行ないながらそぞろ歩き半日を過ごす「どうぶつえん」、渋谷駅前のサークル状の歩道橋で踊る「ストリート」を何年も実施しており、作品という単位やメディウムでは区切れない実践を続けている。

表題作は企画展「バグスクール2025:モーメント・スケープ」(キュレーター:池田佳穂)への参加作品である。

壁面と複数の紙面を横断しながら描かれる《環境(動くきっかけのインスピレーションがある)のスケッチ&ドローイングしよ》、ひとつだけ額装された《BUGと、今日おどり》(2025)をはじめ、Aokidのドローイングは基本的にペンで描かれている。2000年代前後に小学生時代を過ごした人は覚えがあるかもしれない、パステルカラーでカリカリに尖ったボールペンの煌めきが紙面を飛び交う★2。太い水性マーカーと思しき線も画面には共存する。線幅の中に透明度があり、塗りつぶしながらも紙面の向こうを維持する色★3。Aokidは以前「展示作品は、白い紙を絵で埋める作業。ダンスは、自分の体を使って空間を埋める作業。二つはとても似ていると思う」と述べている★4。たとえ紙面が小さくとも、Aokidのペンがその一手一手で踊っていることは描かれた絵から想像できる。色も線種もさまざまなストロークが紙面に重なっている。

遠近法の描写を考えてみると、太い線と細い線が並ぶと、太い方が近く、細いほうが遠いと考えられる。細い線は、遠くから対象を眺めているような複雑さを伴う。Aokidのドローイングを見てみると、細い線で小さく、笑っているような困っているような、一文字に結ばれた口の人間が描かれていることに気づく。ポツンと佇むようなその姿。しかし、太い線で描かれるのは大づかみに大陸と海が塗り分けられた地球だったりする。より遠くからの眺めに思える惑星の姿にこそ、太い線幅があり、迫ってくる。モチーフの大小と遠近はこうして攪乱され、眺めている私の身体は伸び縮みし、前後に揺さぶられる。


額装されているのが《BUGと、今日おどり》(2025)、周囲のドローイングが《環境(動くきっかけのインスピレーションがある)のスケッチ&ドローイングしよ》。後者は会期中も随時加筆が行なわれるそうだ[筆者撮影]

展示とは振付装置でもある。描くことと踊ることの重なりを見てとっていたAokidは、現在、鑑賞すること、観ることのなかに踊りを見出しつつある。そのことを端的に示すのが、展示空間の手前にある、角材に小さなパネル等が取り付けられた立体作品《“月る、幽霊る、角く、春”をやっているコーナー》(2025)だ。ここには小さなドローイングを行なうためのインストラクションが用意されているが、これは描くことへの振付である。同作品にはQRコードがあり、そこにはAokidが自身のインスタレーションを観ながら収録した言葉が収められており、またその言葉を聞きながら自身が鑑賞し、動いた記録映像が流れている。観ることがすでに踊ることであることの宣言は、展示物の中にひっそりと忍ばせてあるのだ。

ところで、ワークショップの途中、Aokidは天井のスポットライトについて話し始めた(身体は動かしながら)。あそこの光が(右腕を伸ばし、人差し指で光に向けて指す)ここへ降りてきて(折り返し、こちらへ差した指が戻ってくる)自分を照らす(人差し指は私に触れようとする)その光があなたへ!(触れる寸前でターンした指が、腕があなたへ向かって伸びていく)

こんな調子で、Aokidは光に言及したり、空気の流れ、外を歩く人に指を指し、沿わせ、戻し、送り出す。「こんな感じで、通りを走る車と踊ることもできるんですよ!」

吊られたブルーシート、キャンバス。簡単に貼り付けられたような画用紙。マスキングテープ。さらに、ドローイングの紙面にある鮮やかな線たち、浮遊したような、千切れたような物たちを思い浮かべる。

描かれたあれらは物だったのか、光だったのか。あれらは動いているのだろうか。止まっているのだろうか。

後編へ)


★1──たまに「オジサンーーー」のように意味のある単語も登場するが、基本的に口当たりのいい音の連続した単語らしきものを発声する。具体的にひとつも思い出せないため、それらしきものを記載しておく。ぜひワークショップに参加して確かめてほしい。
★2──例えば、三菱鉛筆の「ユニボール シグノ」のゲルインキ。
★3──例えば、三菱鉛筆の「プロッキー」。
★4──Aokidがグランプリを受賞した第12回グラフィック「1_WALL」審査会レポート(2015)の質疑応答より。


鑑賞・ワークショップ参加日:2025/12/27(土)