会期:2024/07/01〜2026/06/01
会場:サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA) Roberts Family Gallery[アメリカ、サンフランシスコ]
公式サイト:https://www.sfmoma.org/exhibition/fortuna-and-the-immortality-garden-machine/
サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)のロバーツ・ファミリー・ギャラリーで開催されているカラ・ウォーカーの「Fortuna and the Immortality Garden (Machine)」は、コロナパンデミック以降の身体とテクノロジーの関係性を、アメリカの歴史的トラウマである奴隷制と接続することで人類の機械化への欲望とトランスヒューマニズムが孕む暴力性を批評的に問い直す試みである。

[筆者撮影]
ロバーツ・ファミリー・ギャラリー★の開放的なガラス張りの空間とは対照的に、展示空間には黒曜石が敷き詰められ、金色のベルベットが張られたジオラマ風の展示台と、8体の機械仕掛けのオートマタが配置されている。インターフェイス主体のコミュニケーションが加速した2018年から2022年にかけて制作された本作。特筆すべきは、ウォーカーがパンデミック禍に経験した隔離生活やカリフォルニアの山火事、そしてアメリカの黒人奴隷制や見世物小屋といったベイエリアの歴史的記憶が、前近代的なオートマタの表象を通して重層的に構成されている点にある。
展示台を埋め尽くす黒曜石は、物質的な時間の集積であると同時に私たちが日常的に触れるスマートフォンの黒いディスプレイを暗示する。そこには精神の拠り所としての生身の身体が希薄化し、スクリーン上の記号やデータへと還元されていく現代的な感覚が通底している。鑑賞者の前でメッセージが書かれたおみくじを吐き出す者、周期的に脱臼する者、鐘をつく者。ジオラマの「庭師」として単一の役割を与えられたオートマタたちは、現代の滑らかなインターフェース設計とは異なり、ぎこちない反復運動や痙攣を繰り返す。

[筆者撮影]
こうした機械的な身体が示す痛みの質感は、制作プロセスにあえてChatGPTとの対話を組み込むことによって増幅されている。大規模言語モデルが演算する確率的な回答によって、歴史的な事象や痛みそのものが漂白されてしまう暴力性を浮き彫りにする。ウォーカーは人間未満の機械として扱われてきた有色人種の歴史と、アルゴリズム主導の環境における現代的な身体性を交差させ、不完全な身体の表象を通して人間の精神の所在を問うているのである。現代に横たわる身体の断絶を、痛みや痙攣を伴う物質的な摩擦を通じて可視化する本作は、西洋中心的な世界観によって排除されてきた歴史的な身体性を再演する装置として機能しているといえるだろう。

[筆者撮影]
★──2016年にスノヘッタ(Snøhetta)の設計により拡張されたSFMOMAのエントランスに位置するロバーツ・ファミリー・ギャラリーは、街路に対して全面ガラス張りの透明性を持ち都市に開かれたパブリックスペースとして機能している。かつてリチャード・セラの巨大彫刻《Sequence》やディエゴ・リベラのフレスコ画が設置され、モニュメンタルな男性作家の作品が占有してきた空間に対して、黒人女性作家であるカラ・ウォーカーが初のコミッション制作として介入している点も重要である。
鑑賞日:2025/12/28(日)