作品を起点に、それを調査し、ある語りの中に位置づける。美術館における展示はこのように紡がれるものだ。現在、埼玉県立近代美術館で開催されている企画展は学芸員の仕事の根幹であるコレクションとの向き合い方について、改めて考えてみる契機となった。

学芸員とコレクション

時に自嘲気味に言われることもある「雑芸員」という言葉に象徴されるように、学芸員の仕事は多岐にわたっている。もちろん、館の規模や体制にもよるが、企画展となれば、そもそもの企画立案にはじまり、作品調査、出品交渉、借用、輸送、そして展示という根幹となる業務に加え、広報宣伝、図録作成、関連企画の準備など、携わる業務は実に幅広い。併行して、美術館運営の通常業務とでも言うべき、普及活動や収蔵品管理、環境維持の業務なども行なっているわけだが、それらが具体的にどのようなものなのか、案外知られていないのだと感じることも多い。

昨今、学芸員の仕事について紹介するような書籍の発行も相次ぎ、その実態について関心が高まっているのかもしれないと希望的観測を抱いているものの、学芸員にとっては当たり前でも、世間一般ではほとんど知られていないことが、まだまだある。美術館・博物館への世間からの風当たりは強く、学芸員という存在が「エッセンシャル」ではないと切り捨てられる可能性もある。学芸員の仕事、そして美術館の役割がどのようなものなのかを示していくことの重要性は、いや増していると言っていい。そんな学芸員の、大切にすべき役割のひとつに、コレクションとの向き合い方がある。
 
埼玉県立近代美術館で開催されている「コレクションの舞台裏―光をあてる、掘りおこす。収蔵品をめぐる7つの試み」と題された展覧会は、収蔵品とその調査活動に立脚しつつ、それが美術館活動のなかでどのように位置付けられるのかを、学芸員の活動を呈示しながら紹介する展覧会である。同館ではこれまでも2002年の「美術館物語」、2022年の「扉は開いているか―美術館とコレクション 1982–2022」などの展覧会で美術館の活動に関する展示を積極的に行なっており、今回の展覧会もその系譜に位置付けられるものと言える。なかでもとくに、一般的なコレクション展では埋没してしまいがちな視点、すなわち展覧会を構築しているのが現在に生きるひとりの学芸員の視座によるものであるという点が、企画展の枠組みの中で示されていることは特徴的だ。


埼玉県立近代美術館「コレクションの舞台裏」展の冒頭部分に置かれた学芸員のデスク。[筆者撮影]

コレクション展に求められる新しい文脈

繰り返しになるが、コレクションや収蔵品は、美術館の基盤となるものである。そしてそれらを展示するコレクション展は、美術館学芸員の活動の根幹をなすものだ。そこには、コレクション展ならではの難しさというものもある。日々いくつもの難しさを感じているが、例えば、新しい切り口で作品を紹介することの難しさや、取り扱う作家や作品の偏りが挙げられるだろう。

本展のセクション5「細田竹―日常を描く」では、「美術館の『舞台裏』で出番を待ち続ける作品」★1 を、美術史の流れの中に位置づけし直す試みであった。

細田の作品が「出番を待ち続ける」こととなったのは、他の所蔵品と関連付けての展示が難しいためであったかもしれない。自分自身の経験を振り返っても、展示したいと考える作品はあっても、それを他の作品との間にどのようなストーリーを構成して展示するかという点で紹介できずにいるものがある。

今回の展示では、細田竹の師事した柿内青葉とその師である鏑木清方、さらに清方門下の伊東深水との作品によってひとつのセクションが形成されていた。近代日本画における美人画の系譜、そしてそこに位置付けられる収蔵品2点を提示することで、郷土の作家という枠組みにとどめることなく、細田の作品が紹介されていた。

公立美術館のコレクションは、その収集方針で地域とのつながりを重視しているものが多い。地元作家への顕彰でもあるのだが、開館からの月日を重ねるなかで、単に「地元作家」というくくりだけで展示することには限界もある。必ずしも業界や画壇といった流れに位置づける必要があるわけではないにしても、美術動向や画題の同時代性といった切り口での紹介には難しさを感じていた。しかし本展は、既存の収蔵品に対しても、まだまだ新しい光の当て方があることに気づかされるものだった。

 


セクション5「細田竹―日常を描く」資料展示の様子。[筆者撮影]

学芸員が紡ぐもの

また、美術館での展示活動を契機として収蔵品となった作品の場合、先ほどの作品以上に展示の文脈をつくり出すことが難しくなる側面もある。本展においては、セクション4「点を打つ―村上善男の美術と研究」における《鯵ヶ沢湾上独双六》がこれにあたる。個人的に「双六」と題された対象に強い関心を抱いていることもあり、非常に興味深いセクションでもあった。


セクション4「点を打つ―村上善男の美術と研究」より《鯵ヶ沢湾上独双六》展示の様子。作品の隣にあるのは作者の言葉。[筆者撮影]

1987年に開催された企画展「現代のイコン」に出品されたことを契機に埼玉県立近代美術館に寄贈された作品であり、本展では「東北に向かって開く窓」★2 として取り上げられていた。収蔵品である同作を起点に、美術作家・研究者の村上善男が研究対象とした松本竣介の作品と対置させることにより、「東北」という土地によって結ばれた作家の眼差しを追体験する場がつくり出されていた。展示を担当した学芸員の西尾真名氏は、村上にゆかりのある東北の地を取材している。作家の生きた足跡を辿ることにより、その作品の見え方がより鮮やかに、立体的になるという体験は筆者自身もしたことがあるが、今回の展示では、松本の作品を捉える村上の視点や、それらを辿る西尾氏の視点が提示され、さらに観客はその一連の成果を見るという、重層的な構図を強く意識させるものとなっていた。

本展冒頭に掲げられた関直子特任館長の言葉にもある通り、展示というものは「ある時代を生きるひとりの学芸員の視点」によって紡がれた星座のようなものであり、「展示という視覚的なテキストにも、実は学芸員という語り手が存在する」ということが、強く実感されるセクションとなっていた。

日常業務のなかで、その身近さゆえにともすると新鮮さを感じられなくなってしまうきらいのあるコレクションとの向き合い方について、果たして自分は真摯に向き合ってきたのだろうかと振り返る契機となった。さらに、学芸員のひとりとして、コレクションの調査・研究活動という本道と改めて丁寧に向き合う必要があると痛感している。今後、筆者自身も目の前の星の輝きだけに目を向けず、さまざまな星から成る新しい星座を紡いでいきたい。

★1──菊池真央「細田竹 日常を描く」(同展図録、p.47)
★2──西尾真名「点を打つ 村上善男の美術と研究」(同展図録、p.37)

コレクションの舞台裏―光をあてる、掘りおこす。収蔵品をめぐる7つの試み
会期:2026/02/07~2026/05/10
会場:埼玉県立近代美術館[埼玉県]
公式サイト:https://pref.spec.ed.jp/momas/2026butaiura