30周年記念として続けてきたこの企画は、いよいよこの3月で締めくくりを迎えました。特別編集委員をつとめていただいた星野太さんにご自身の企画について、またこの期間をとおしてartscapeについてあらためて考えられたことについてご執筆いただきました。(artscape編集部)

本サイト(artscape)は、1995年に大日本印刷株式会社(DNP)の文化活動の一環として開設され、それから複数回のリニューアルを経て現在のかたちになった。
先日、3月6日(金)に行なわれたトークイベント「1995 ⇄ 2025 ⇄ 2055 ── アートシーンとアートメディアの60年を考える 」でも話題になったように、インターネットの黎明期にローンチされたartscapeは、いまだウェブサイトをもつことが一般的でなかった美術館の広報活動を支援することを、開設当時のミッションのひとつとしていた(この理念は現在も、展覧会・ミュージアムの検索機能というかたちで維持されている)。そうした経緯もあり、artscapeではアーティストをはじめとする「表舞台」を飾る人々よりも、全国各地の美術館スタッフをはじめとする「裏方仕事」に携わる人たちにしばしば光を当ててきた。これまでのシリーズで言えば、「キュレーターズノート (旧学芸員リポート)」や「スタッフエントランスから入るミュージアム 」 といった記事がその典型である。
このたび30周年企画の特別編集委員を務めるにあたり、わたしが試みたかったのは、前述のような特徴をもつartscapeの歴史的背景をふまえ、それをさらに充実したものにすることだった。まがりなりにも現代美術の世界に関わっていれば、アーティスト、キュレーター、批評家はもちろんのこと、編集者、NPO職員、インストーラー、ショップスタッフなど、さまざまな仕事に携わっている人たちと出会う。そのなかには、従事する職務の性質上、なかなか公的に発言する機会をもたない人たちもいる。ふだん、一般の鑑賞者の視界に入りづらいアートワーカーたちの仕事ぶりを伝えることは、前述のようなartscapeの成り立ちや理念にも即したものであるように思われた。
今回わたしが担当した記事は、1)NPO法人「金沢アートグミ」理事の上田陽子さんへのインタビュー「金沢アートグミ・上田陽子氏に聞く、地域とアートのインフラ」、2)2025年3月に閉店したNADiff a/p/a/r/t(恵比寿)で長らく店長を務めた鈴木綾子さんへのインタビュー「ナディッフの軌跡──セゾン文化、ミュージアムショップ、共創の現場 」、3)アーティスト・インストーラーの𡈽方大さんによる「『展示技術』と『教育』」、4)金沢21世紀美術館館長の鷲田めるろさんによる「美術館を開く託児室 」の4本である。それぞれの記事のねらいや、そこに込めた思いについては、冒頭のリード文でも書いたのでここでは繰り返さない。この半年間、取材や寄稿というかたちで協力していただいた4名の方々、および太田知也さんをはじめとする編集部の方々には心より御礼を申し上げる。
これまでの30周年企画のなかで出た評言を借りれば、わたしもまた、artscapeには「どこか淡々と身支度をしているような」安定感を感じてきた(長谷川新「Re: しかしだからといって──それぞれのバックナンバー(3)」 )。それはおそらく、展覧会に不可欠なカタログ・チラシ類の制作を通じて、さまざまな美術館と長期的な関係を築いてきたDNPの企業的エートスによるところも大きいだろう。この30年は、雨後の筍のごとく林立するウェブメディアが、きわめて苛烈なアテンション・エコノミーに巻き込まれていった時代だったと言える。もちろん、今後も情報環境のアップデートにともない、artscapeのようなウェブメディアのありかたも更新を余儀なくされていくだろう(きりとりめでる×竹久直樹×萩原俊矢×畑ユリエ×水野勝仁「30年後のウェブメディアを構想する 」)。そのようななかでも、その時代において伝えるべきことを確実に伝える、artscapeの「淡々とした」居住まいが今後も長く継承されていくことを願っている。