会期:2024/02/17~2024/05/06
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]
公式サイト:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5252.html
日本を代表するテキスタイルデザイナーの須藤玲子は、生産現場をとても大事にする真のクリエイターなのだろう。本展を観て、そう強く感じた。多くの人々はファッションに興味はあっても、その布がどのようにつくられているのかに関心を持つことは少ない。流行の商業施設に行ったとしても、布がインテリアの一部を担っていることに注意を向けることも少ない。しかし人々の興味や関心の的ではないとしても、テキスタイルが暮らしや社会のなかで快適さや居心地の良さにひと役買っていることは間違いない。本展はそうしたテキスタイルの縁の下の力持ち的な役割や魅力、さらに布づくりの舞台裏を紹介する内容となっていた。
須藤玲子×アドリアン・ガルデール《続・こいのぼりなう!》(2023)水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景[撮影:林雅之/写真提供:水戸芸術館現代美術センター]
圧巻だったのは、齋藤精一のアーティスティック・ディレクションによるマルチメディア・インスタレーションである。一般に製造工程を伝える方法には写真や動画、一部現物の展示などがよくあるが、それらに留まらず、本展では工場で使われている大きな機械そのものを登場させたかのような演出がなされていた。正確に言えば機械ではない。長テーブル状の什器なのだが、天板に大きな布を垂らして映像を投影し、さも針で刺していたり、熱収縮させていたり、プリーツにしていたり、和紙を貼付していたりと、特殊加工を施している生産現場を再現してみせたのだ。その臨場感ときたら、半端ではなかった。それはテキスタイル開発で協働している工場や職人が持つ高い技術や彼らの仕事ぶりを多くの人々に知ってほしいという熱意と同時に、彼らへのリスペクトまでも伝わるインスタレーションだった。
また、須藤がこれまでにテキスタイルデザインに臨んできた際のドローイングやサンプルなどの展示を観ると、日常に見聞きした物や体験などのほか、生産現場を訪れる行為がいかにアイデアの源泉になってきたのかということがわかった。おそらくその方が机上でデザインするよりも、一層、革新的な布づくりができたからなのだろう。そんなつねに新しい挑戦を続ける彼女の骨太なクリエイションを体感できる展覧会だった。
鑑賞日:2024/03/03(日)