会期:2024/02/16〜2024/02/25
会場:共同紙工株式会社敷地の工場[宮城県]
公式サイト:https://www.instagram.com/p/C2cPxvovtZB/

棚板をつくるために近郊のホームセンターへ行った。木材を買うのは3、4年ぶりだと思う。木材の価格高騰は落ち着いたはずと思っていそいそと出かけたが、値札を見て以前の倍近い金額(体感)に一瞬放心。角材の周囲をうろうろしていたら木質材料と鉄でできたラックが安かったので購入。目下、用途次第では木より鉄が安い。杉や檜の花粉が猛威を振るい続けるほど溢れているのになぜ木材は高いままなのか。

東北大学大学院都市建築学専攻の同期で2019年に結成した空間・什器設計/制作ユニット「建築ダウナーズ」のスタジオは、仙台市の地下鉄東西線「六丁の目」駅より徒歩7分、産業道路沿いに製紙関連の工場が整然と立ち並ぶ一角にあるらしかった。パッと見当たらず様子を伺っていると、数メートルにわたる丸太の断面がいくつも並べられた空間に行き当たる。近寄ってみたら丸太は什器であり、そこがスタジオだった。

スタジオに入ってすぐの丸太の什器の上で、角材に立掛けられたアクリル板が陽射しを受けて輝く。アクリルに白インクで描かれた文字と図を滑って透明な支持体を通り過ぎ、什器となっている木材の質感に目が奪われる。什器に乗った資料類を真上から読んでいる分にはプレーンな木製の台に見えるが、什器からちょっと距離を取るとたちまち猛々しい木の皮が主張する。ひとしきり造作や木目を堪能した後、アクリル板に描かれた事物を読み始めた。そこには「この木」がどこからやってきたかが描かれていた。

会場風景[撮影:長崎由幹]

「建築ダウナーズ」は、2021年春にcovid-19による影響で生じた木材の急激な価格高騰(第3次ウッドショック)を契機に、自身が材料として用いてきた木がどのようにして自分たちの手元に届くのかというリサーチを2022年から行なっている。

その手法は多岐にわたり、林業や建築業、材木店、工務店、猟師、森林環境の整備に携わる人々へのインタビュー、その活動への同行と映像での記録。丸太の購入、運搬、製材、制作……と実直かつ幅広い展開を続けてきた。本展はそのなかでも直近のインタビューの冊子、記録写真、映像、昨年購入された丸木でつくられた屋根の模型や図面、耐久テストの一端が紹介されているものだ。

インタビュー冊子[撮影:長崎由幹]

インタビューは例えば、仙台市泉区にある工務店「東建設」の会長である片山鶴衛が、かつて家は施主の希望に合わせて「つくる」ものだったがそれが、家電製品のようにハウスメーカーの提案に合わせて「買う」ものになっていったと振り返り、仙台市青葉区立町で板橋材木店を営む板橋初郎はかつて100ほどあった仙台の木材屋の活況と現在の収益性について語るというように、複数の視点と人生が無数に反射するものだった。

什器となっている木は宮城県南の丸森にある山で自伐型林業を行なう「Woods and People MARUMORI」(以下、ウッピー)で購入されたものだ。自伐型林業とは、所有する山林に対し自家労働力で木材を伐採・搬出してきた「自伐林業」とは異なり、自治体や集落、森林所有者から受託や請負で実施する小規模な林業である。自伐型林業は長期的な多間伐施を行なうことによって、日本の中心的な林業施策である大規模な単伐期伐採(40~50年で一斉に伐採する)が抱えてきた経済的な破綻(生産高以上の慢性的な助成状態)や森林環境(一斉の伐採による土壌劣化と土砂災害の誘発)の改善が見込め、都市部から農村部への移住者でも参入できる職業としても、近年注目を多面的に集めている。

本展では、建築ダウナーズによる口頭の説明や資料、そしてウッピーが伐採と丸太の搬出を行う映像を通して、その「小規模」のスケール感がありありと伝わる。軽自動車ほどの大きさの運搬車の動作を見るに、研修をしっかり受けて、体力づくりに励めばわたしも従事できるかもしれないと思うほど、手の届くものとしての林業を映し出す。

杉の丸太がどのようにここまでやってきたかの図解[撮影:長崎由幹]

「なぜウッドショックが起こったか」といえば、立花敏や遠藤日雄が指摘するように、covid-19を端緒とした湾岸労働力の不足やアメリカでの住宅需要の上昇による輸入材の供給不足と価格上昇、そしてその国産木材の価格上昇への波及が要因だと言える。この価格高騰への事前対策として林業のあり方を模索するうえで、輸入サプライチェーンや完成製品の在庫の強化も挙げられているのに対して、建築ダウナーズのプロジェクトは「木材がどこからきたのか」という無数の答えにつながる問いを通して、国内の林業そのものを手元からひとつずつ探り直していると言えるだろう。

山林とともにある生から立ち現われる問いは、奈良・町屋の芸術祭「はならぁと2023 こあ 宇多松山」と同時開催されていた「棍棒のふるさと展2」や「木下伊織個展『枯れゆく大地、浄化への旅』」とも共有できるものであり、これらと並行して建築ダウナーズの活動もまたどう展開していくのか、わたしの手にあまることは棚に上げて追っていきたい。

 

参考文献

・高野涼「書評 佐藤宣子著『地域の未来・自伐林業で定住化を図る─技術、経営、継承、仕事術を学ぶ旅─』」(『林業経済』74巻1号、林業経済研究所、2021.4、pp.22-26)2024.3.10閲覧(https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinrin/74/1/74_22/_article/-char/ja
・田村典江「後発林業地の市町村林政と自伐型林業 ─島根県津和野町の事例から─」(『林業経済』74巻3号、林業経済研究所、2021.6、pp.1-16)2024.3.10閲覧(https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinrin/74/3/74_1/_pdf/-char/ja
・立花敏「ウッドショックはなぜ起こったか? 〜海外依存から国内資源利用への示唆〜」(『森林環境2022』、森林文化協会、2022、pp.54-57)
・遠藤日雄「第3次ウッドショックの現状整理と今後の読み方」(『現代林業』2021年9月号、全国林業改良普及協会、2021.9、pp.12-35)
・幡建樹+井上雅文「ウッドショックと木材加工流通」(『林業経済研究』69巻2号、林業経済学会、2023.11、pp.1-12)

鑑賞日:2024/02/18(日)