会期:2023/12/19~2024/03/10
会場:名古屋市美術館[愛知県]
公式サイト:https://art-museum.city.nagoya.jp/topics/mouju_hekiga/

そういえば昨年の秋「福田美蘭─美術って、なに?」展を訪れたとき、常設展示室の一室で動物を描いた3点のパノラマ画を修復していたなあ。これはその修復完了報告展。

名古屋市の東山動物園では第2次世界大戦中に多くの動物が失われたため、戦後まもない1947年に3人の画家がさまざまな動物を描いた3枚の壁画を制作し、「猛獣画廊」と称してカバ舎に展示したという。戦中・戦後の動物園をめぐる笑うに笑えない悲喜劇である。やがて動物が戻り、役割を終えた壁画は1997年に美術館に収蔵され、開館30周年の2018年に公開。しかし傷みが目立ち修復が必要なため、募金による「修復プロジェクト」が立ち上がり、今回の完成披露となった。

壁画を描いたのは太田三郎、水谷清、宮本三郎の3人の画家。宮本はともかく、太田と水谷は初めて聞く名前だが、それぞれ出身が地元の愛知県と岐阜県のため選ばれたのだろう。太田が南極と北極のシロクマやペンギンなど、水谷が南方のトラや大蛇など、宮本がアフリカのゾウやライオンなどの動物を5メートルのワイド画面に情景描写している。しかしいま見れば、シロクマとペンギン、トラとオランウータンなど生態学的にはありえない動物の組み合わせや、手前のカバやサイより奥のゾウのほうがはるかにでかいといった遠近感の狂いなど、アラを探せばいくらでも見つかるが、限られた期間で乏しい資料を参照しながら大画面を仕上げなければならなかったのだから仕方がない。


宮本三郎《東山動物園猛獣画廊壁画No.3(修復後)》(1948)137 x500cm[写真提供:名古屋市美術館]

驚くのは、3人の画家が決まり新聞紙上で発表されたのが1947年の10月2日で、同月中旬には下絵を公開し、11月上旬には完成というわずか1ヶ月間の信じられないペースで進んだこと。これはもう芸術家の作品というよりペンキ屋の仕事ではないか。そんなものを美術館がコレクションして修復までする必要があるのか、という疑問もないわけではないが、これは芸術的価値より、戦中・戦後の特殊状況における美術家の貢献を示すものとして、社会的価値が高い作例だ。その意味では戦争画と対比的に語れるかもしれない。宮本三郎は戦争画を描くときとどのように気持ちを差別化したのだろう? それともしなかったのか。

鑑賞日:2024/03/01(金)