会期:2024/02/03~2024/09/01
会場:京都市京セラ美術館[京都府]
公式サイト:https://takashimurakami-kyoto.exhibit.jp/

チラシによれば「国内で約8年ぶり、東京以外で初めての大規模個展」、しかも7カ月間という異例のロングランに、「先着5万名様プレゼント」という鳴り物入りの展覧会。ちなみにプレゼントは早くも2月6日に配布を終了したというから、1日1万人以上が押しかけた計算だ。このペースで入れば200万人突破も夢ではない。さぞかし混んでいるだろうと思ったら、美術館のエントランスは意外にも閑散としている。あれ? おかしいな。館内に置かれた鬼の彫刻《阿像》(2014)、《吽像》(2014)のあいだを抜け、会場の東山キューブに入ったらけっこう混んでいた。いつもは2、3本の展覧会を同時開催しているのに、この時期は村上展だけだったので人が少なかったのだ。

会場に入ると、いきなり全長13メートルに及ぶ《洛中洛外図  岩佐又兵衛 rip》が視界をふさぐ。岩佐又兵衛の《洛中洛外図屏風(舟木本)》(17世紀)をかなり忠実に再現した新作だ。何十人だか何百人だか知らないがアシスタントに描かせたとはいえ、これほどの大作をディレクションするだけでも大変な労力が必要だろうと推察できる。次の部屋は、鐘楼《六角螺旋堂》を中心に、京都の四方を囲む「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」を暗闇から浮かび上がらせる構成になっている。いわば村上版「平安京」。ここまででもわかるように、今回の出品作品は大半が京都にまつわる新作だ。


村上隆《洛中洛外図  岩佐又兵衛 rip》[筆者撮影]

曾我蕭白の《雲龍図》に想を得た全長18メートルもの超大作《雲龍赤変図》(2010)も、俵屋宗達の《風神雷神図屏風》(17世紀)を換骨奪胎し、ズッコケるほど情けない姿をさらした《風神図》(2023-2024)、《雷神図》(2023-2024)も、オリジナルは京都ゆかりの名作。尾形光琳および琳派の装飾性を花のデザインに活かした円形作品しかり、日本画の先輩たちが描き継いできた舞妓のアニメ風しかりである。


左:村上隆《風神図》 右:《雷神図》[筆者撮影]

京都は日本美術の宝庫であり、そこで個展を開くことは日本画出身の村上にとってチャレンジングな試みだったはず。そのことを見透かして、美術館側は海外のコレクターから旧作を借りてくるだけの輸送費も保険代も払えないから、京都に絡めた新作を描いてくれないかとリクエストしてきたという。そんな「トホホな要望」に応えて新作160点を制作したけど一部が間に合わず、会期中に展示替えをしていくことになったとか、数億円に上る不足資金を補うために「ふるさと納税制度」を活用したとか、あるいは「ゴテゴテに盛った唐獅子図をなぜ制作せねばならなかったのか」という「言い訳」まで含めて、暴露的な内輪話を村上自身が会場の数カ所に自分の似顔絵つきのパネルで明らかにしているのだ。

これは村上ならではの切実感、臨場感があってつい読んでしまう。しかもこの「言い訳ペインティング」まで新作としてカウントしているというからあきれるではないか。とはいえこれは日本の美術行政への痛烈な批判であり、世界を目指すアーティストをはじめ美術関係者にはぜひ読んでほしいテキストだ。今回は京セラ美術館のゼネラルマネージャーである高橋信也氏との厚い信頼関係があったから実現できたのであって、おそらく村上の個展はもう日本の公立美術館では2度と開けないだろう。


会場の各所に展示された「言い訳」ペインティング[筆者撮影]

鑑賞日:2024/02/29(木)