近年のアジア地域における現代美術の諸傾向を統括する用語。福岡市美術館が1979年の開館以来いち早くアジア諸国の美術動向の紹介に積極的に取り組み、99年3月6日には専用施設の「福岡アジア美術館」が開館したほか、国際交流基金も95年に東京・赤坂の赤坂ツインタワー内に「アジア国際センター」をオープンさせるなどして、最近の日本ではこの動向がすっかり定着した観がある。近年アジア諸国の作家が諸々の国際展で目覚ましい活躍を遂げたことにより高い注目を集めている動向だが、アジアの現代美術に精通した専門家が少ないこともあって、少数の学芸員や批評家が手がけた一連の展覧会企画には方向性の偏りも指摘されている。ときとしてその批判が現在の美術の制度全般にまで及ぶのは、この動向には旧宗主国である日本が主導する国際展対策としての意味合いが強いからであろう。確かに、極めて多様なアジア諸国の動向を「アジア美術」の一語のもとに十派一把げとしてしまう政治力学には、批判的に再考されるべき点が少なくない。いずれにせよ、東西冷戦構造の崩壊に伴う西洋中心的なモダニズム芸術観の更新を迫る、マルチカルチュラリズムの一角をなす動向には疑いなく、今後は従来とは別個の視点による紹介が期待される。
(暮沢剛巳)
関連URL
●国際交流基金 http://www.jpf.go.jp
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