「美しき時代」の意。19世紀末から第一次世界大戦勃発にいたるまで、パリをはじめとする近代都市空間で文化と経済の繁栄が謳歌された時期を指すが、厳密な時代名称とはいえない。印象派、後期印象派、象徴主義、アール・ヌーヴォー、キュビスム、フォーヴィズムなど数々の新しい芸術運動、芸術思潮がこの世紀転換期に展開された。万国博覧会では各国の芸術と産業の成果が誇示され、舞台ではバレエ・リュスが一世を風靡、女性解放の流れを受けてモードの世界ではポワレがコルセットを追放するなど、各領域で現代化が進む。この古き良き時代への懐古的憧れはM・プルーストの著作に、時代の華麗で享楽的雰囲気はA・ルノワールやトゥルーズ=ロートレックらが描くモンマルトルの盛り場の光景によく表われている。一方では戦争前の一時的な逃避的平和という側面もある。ユダヤ人大尉の冤罪事件をめぐり左翼対右翼の大論争が引き起こされた、1894年のドレフェス事件に見られる反ユダヤ主義や、資本主義経済の矛盾なども抱えていた。
(陳岡めぐみ)
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