パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによる分析的キュビスムの最盛期(1909−12頃)の絵画言語。この頃の2人の作品は最良のキュビスム作品だといっても過言ではあるまい。この時期の作品を構成するのは、多くの小さな切り子面と、全体の構造を表わす何本かの直線と、その絵画の対象の手がかりとなる記号であった。切り子面は、絵画という独自の空間を創出し、全体的な構図を作成する要素である。ひとつの小さな面は、見る側に対する角度を表わすために、構造の基本となる、交差する太い線からなる面と、その傾斜を表わす明暗の段階的な移行からなる。
この2人のキュビスム絵画には常に対象があるが、この切り子面の集積でその対象を表わすという手法をとることで、対象を写しとる以上に絵画を構成するようになるのだ。この技法にはセザンヌの影響が見られる。セザンヌは小さな面の集積と、パッサージュと呼ばれる余白を残すことによって、3次元の対象を2次元の平面に表現した。キュビスム絵画では、色彩を制限し、切り子面の一方は開かれているために、輪郭は閉じられない。浅い奥行きで凹凸が繰り返される。
2人の絵画に文字が最初に導入されたのは、1909年にブラックが新聞の見出しの文字を書き込んだ時だが、その後11年頃の作品には頻出するようになる、タイポグラフィとしての文字の導入も、切り子面との関係で説明できる。切り子面の集積によって、対象の判別が困難になったため、あるいは、2次元の平面としての絵画に、新たな平面を導入し、その平面性を強調するために文字を画面に導入したのだ。
(三上真理子)
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