誰しも一度は、初めて訪れた土地で買い求めた土産や民芸品に、自分にとって未知の文化や伝統を感じ取った経験があるだろう。「フォーク・アート」とは、この種の感慨が欧米の作家たちに広く共有され、そうした未知の文化や伝統に新しい表現の可能性が見出されるようになった近代になって生まれた概念であり、特定の地域や年代や様式と結びつくものではない。その意味では、いわゆる「クラフト」を美術の文脈へと置き直そうとしたW・モリスの「生活の芸術化」も、あるいは「プリミティヴィズム」や「フォーヴィズム」といった一連の美術史的動向も「フォーク・アート」へと含めることができるかもしれない。もっとも、「フォーク・アート」の発見を可能にした観光産業が、次いで必然的にその衰退や疑似商業化を招く逆説を免れることはできない。あるいは、今日的な「ポストコロニアリズム」の視点に立てば、「フォーク・アート」もまた西洋中心的な搾取の一例として批判にさらされることになるだろう。
(暮沢剛巳)
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