1989年にポンピドゥ・センターで開催された企画展。大規模な展示のため、第二会場としてヴィレットが使用された。この展覧会のキーワードである「魔術」とは、ヘーゲルによって「芸術の死」が宣告されて以降の「芸術の精神的・形而上学的な位置」を明らかにする意図をもつもので、その具体化のために、従来プリミティヴィズムやフォーク・アートとしてカテゴライズされていた第三世界の美術を、西洋の現代美術と全く等価のものとして扱う視点を提供した展示手法は極めて斬新だった。もっとも正直なところ、第三世界のアノニムなアーティストと、D・ビュレンヌ、A・キーファー、F・クレメンテ、あるいは河原温や宮島達男といった極めて多様な出品作家をつなぐ関係性は見えにくい。いずれにせよこの展覧会は、90年代の「マルチカルチュラリズム」の議論の先鞭をつけたものとして、終了後も賛否両論喧しく、その議論の過程で自らの主体性を確保しながら世界の現代美術をリードしようとしたフランスの修正主義的な文化戦略も明らかにされてきた。なお、この展覧会の成功によって、第三世界の現代美術のエキスパートとしての評価を確立した企画責任者J=H・マルタンは、その後もフランス美術界の要職を歴任、大きな影響力を持っている。
(暮沢剛巳)
関連URL
●A・キーファー http://www.dnp.co.jp//museum/nmp/nmp_j/people/a-kiefer.html
●F・クレメンテ http://www.artchive.com/artchive/C/clemente.html
●河原温 http://www.dnp.co.jp//museum/nmp/nmp_j/people/o-kawara.html
●宮島達男 http://www.dnp.co.jp//museum/nmp/nmp_j/people/t-miyajima.html
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