1992年、ジョセフ・コスースが、ブルックリン美術館(ニューヨーク)のグランド・ロビーを展示場に企画した展覧会/インスタレーション作品。タイトルはコスースがこの展覧会に先だって発表したヴィトゲンシュタインをめぐるインスタレーション、「言いえないものの戯れ(The
Play of the Unsayable)」のセルフ・パロディである。コスースは、この美術館が所蔵する古今東西の作品から、性的、政治的、宗教的にタブーとされそうな、つまり「話題にできない(unmentionable)」作品(日本の春画、黒人奴隷を描いた絵画、殉教=残酷な拷問の場面を描いた絵画……)を選び、これを同じく古今の文献から選んだ、芸術の社会性について述べたテクスト(「退廃芸術」を念頭に置いたアドルフ・ヒトラーの言葉、オスカー・ワイルドによる芸術とモラルをめぐる言葉……)と並置した。コスースにしてはめずらしく挑発的なこの作品には、当時問題になっていたNEA(国立芸術基金)の保守化に対する批判の意図がこめられている。けれどもそれは同時に、言語を自己言及的な構造の中で用いる初期の作品から転じて、より言語の社会的背景=コンテクストをふまえた作品を制作するようになった「人類学者としての芸術家」コスースの、ひとつの到達点ともなっている。
(林卓行)
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