アメリカの保守派の論客D・ベルが提唱した概念で、その主著『脱工業社会の到来』の邦題にならって、日本語では「脱工業主義」と訳されることがある。社会は、自然とのゲームに終始していた「前工業社会」→加工された自然とのゲームにいそしんでいた「工業社会」→人間同士のゲームが開始された「脱工業社会」の3段階のプロセスを経てきたというのがベルの認識であり、この「脱工業社会」を迎えて人間社会の政治、経済、文化はバラバラに分解しており、宗教によって新たな統一を模索しなければならないというその主張には、1960年代の高度工業社会に対する痛烈な批判が根底にある。目指す方向性はまったく逆だが、ある意味でこの立場は、左派陣営がほぼ同時期に唱えはじめた「後期資本主義」と同様の主張の裏返しとも言えるだろう。そして、この「ポストインダストリアリズム」に対応した芸術表現と言えば、資本主義のイメージを流用したポップ・アートや、産業資材を積極的に活用したミニマリズムが思い浮かぶが、これらの表現形態は、当然ながらベルにとっては否定的言辞の対象にすぎなかった。ベルの他の主著をもじって言えば、それらもまた「資本主義の文化矛盾」の一端なのである。
(暮沢剛巳)
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