本来「類型学」や「形式論」を意味するタイポロジーだが、こと美術の分野に関しては二人のドイツ人写真家、B・ベッヒャーとH・ベッヒャーによって開拓された写真技法のことを指す。この二人の写真家は、1959年以来ドイツ国内を皮切りにヨーロッパ諸国で、給水塔、溶鉱炉、サイロなど数多くの産業施設写真を撮り続け、1970年に初の作品集を出版した。タイポロジーとはこの作品集の副題でもあり、同一の画面の中に、複数の同一施設(例えば給水塔)の写真をグリッド状に配置し、相互の関係性を強く考えさせる作品技法は、確かに「類型学」を想起させる。当初は記録として評価されていたタイポロジーだが、二人は一貫してこの技法にこだわり続け、その作風は徐々に高い評価を確立していく。1990年のヴェネツィア・ビエンナーレで、彼らの作品が彫刻の賞を獲得したことからも、狭義の写真表現の枠を超えたその評価が窺えよう。なおそれと前後して、B・ベッヒャーは1976年にデュッセルドルフ美術アカデミーの教授に就任、「ベッヒャー・シューレ」を自認する多くの後進作家を輩出、その中にはT・ルフのように、建築家とのコラボレーションによって独自のミニマリズム的な作風を確立した作家もいる。
(暮沢剛巳)
関連URL
●B&H・ベッヒャー http://www.ccsu.edu/Gallery/past/lewitt/becher_limekilns.html
|